突如現れた、奇妙な手相。

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ふと自分の手のひらを見たわたしは、思わずギョッとした。日頃から手相など気にしたこともないが、それでも明らかに見慣れぬ線が入っているではないか。

元から変な手相をしているらしいが、さらに輪をかけておかしな手相が構築された様子。手相の見方がわからないわたしは、早速ネットで検索してみた。だがどれもわたしが知りたい線の形状ではなく、いまいち納得できない。

 

・・そういえば昔、JR水道橋駅前の信号で、自称「手相占いの勉強をしている」貧相なオンナに声をかけられたことがある。信号待ちをしていたので、横断できるまでのわずかな時間ならば、わたしの手のひらを拝ませてやってもいいか・・ということで、そのオンナに手を提供してやった。

「こ、これは!非常に珍しい手相です。私の先生にも見せたいので、ご一緒願えませんか?すぐ近くですので」

手相占いの勉強だかなんだか知らないが、誰に対しても同じセリフを吐いているのだろう。指紋で個人が判別できるのだから、手相だって全員違うに決まっている。それをわざわざ密室に連れ込んで、まじまじと手相を見ながら解説することで、宗教にでも勧誘しようというのだろうか。

「・・いくらで?」

このオンナについていく気はないが、念のため「いくら払うつもりで声をかけてきたのか」について、その覚悟くらいは確認してやろうと思い、わたしは静かに尋ねた。もちろん"わたしを拘束するにあたり、いくらの謝礼を払うつもりがあるのか"を尋ねたのだ。

「あ、お代はいただきませんので!」

オンナは自らの手を左右に振りながら、「私たちは怪しい者ではございません」と言わんばかりに、慌ててわたしの言葉を遮った。そしてその返事が起爆剤となり、わたしはブチ切れた。

「テメェがいくら払えるか、って聞いてんだよ!!!」

信号待ちをしていた周囲の人間も、そして唐突に怒鳴りつけられた貧相なオンナも、そこにいる誰もがわたしを見た。そして瞬間的に目をそらしたのだ。

 

——このように、手相にまつわる懐かしい出来事を思い出しながら、わたしは再び己の左手を凝視した。

(やっぱりおかしい。なんなら、ついさっきまでこんな線はなかった気がする・・)

そもそも手相を注視したことなどないので、果たしていつから、この見慣れぬ線が発生していたのかは分からない。だが、チラッと目にした程度で違和感を覚えるのだから、やはり最近現れたものだろう。

 

具体的には"おかしな線"が2種類ある。まず一つは、小指の下のほうにある「月丘」と呼ばれるエリアに現れた、太くハッキリとした横線だ。手首を手前に曲げると、その線が深く凹むほど立派なものである。そして、その線の先端、つまり手のひらの中央部分には、米印のような交わりができている。

(なんだか分からないが、まぁとりあえずそっとしておこう・・)

 

それよりも気になるのは、もう一つの線だ。親指と人差し指との間から手首側へ伸びる線、すなわち"生命線"が、途中で二股に分かれたかと思えば、手首付近で合体して一つの太い線となり、それが手の甲まで繋がっているのである。

手相というのは、手のひら内で完結するものではないのか——。

生命線が長いから長生き・・というわけではないのだろうが、グインと強烈なカーブを描きながら手の甲まで延びる生命線を見ていると、どう考えても"強靭な生命力"を暗に示しているようにしか思えない。

 

そもそもわたしの手のひらには、中央から指方向にむかって"鳥の足跡のような奇妙な三本線"が延びている。以前の手相見習いのオンナも、この三本線に興味を示したほど。

(この三本戦の延長から、スパイダーマンみたいに蜘蛛の糸でも出れば便利なのに・・)

これまでに何度も、スナップを効かせて手のひらを前方に向けてきたが、一度たりとも蜘蛛の糸が出た試しはない。そう、わたしにはスパイダーマンの素質はなかったのだ。

 

そんな三本線の一端を担うのが生命線であり、その生命線が強烈なカーブを描きながら、手の甲へ向かって立派な道を刻んでいるのだ。

(あの、手相を勉強していたオンナに見せたら、なんと言うのだろう・・)

あの時、せめて連絡先でも交換しておけばよかった。今になってまさか、こんなおかしな手相が発生するとは思いもしなかったわけで、彼女を邪険に扱ったことを後悔する——。

 

 

今度、街中で声をかけられることがあれば、率先して手相を提供してあげよう。そのついでに、この線にどんな意味があるのか教えてもらおう。

 

サムネイル by 希鳳

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