(要するに、自分の筋肉で自分の骨を傷めつけた・・ということか)
静かにあばらを撫でながら、わたしはそう呟いた。さっき、アルマジロのようにギュッと丸まった瞬間、あばら骨のあたりから板チョコを割ったような鈍いクラック音が聞こえた。それは本当に、分厚い板チョコ・・あるいはカレーのルーを割ったような、美味しそうな鈍い音だったのだ。
チョコレート全般が大好きなわたしだが、中でも分厚い板チョコをパキッと割って口へ放り込むのが至福の時である。ちなみに板チョコにおいては、味はガッツリ濃厚なビターがいい。抹茶狂を自認するわたしではあるが、"純粋に抹茶味の板チョコ"というのは滅多にお目にかかれないため、美味い抹茶板チョコを知らないから・・というのが正直な理由ではあるが。
そして、真っ黒なビターチョコを冷凍庫でキンキンに冷やし、それを銀紙ごとパキッとやるところから、わたしの板チョコストーリーが始まるのだ。
加えて、薄っぺらい板チョコではなく、厚みと重量感のあるしっかりとしたチョコがいい。理想は"板チョコアイス"のような分厚いやつだが、チョコレートだけであの厚みを出すのは至難の業といえるため、海外製のチョコや北海道の土産店でしか入手できないという、高い壁が立ちはだかるわけだが・・。
というわけで何十回・・いや何百回と心地よいクラック音を鳴らして、チョコを食べてきたわらしだからこそ分かるのだ。この音は、分厚い板チョコを割った音だ——と。
あばら骨・・正確には左の肋軟骨を抑えながら、わたしは放心状態となった。なんせ、転倒してあばらをぶつけたとか、誰かに腹を蹴られたとか、そういうことではないのだ。ただただ、胎児の如くギュッと小さく丸まった瞬間に、自分自身の腹筋の力であばら骨に強大な圧力を加えてしまったのだから。
元から体の硬いわたしだが、それでもあばら骨を破壊するほどのパワーで丸まるはずがない。ちょっと腹に力を込めて「フンッ」と丸まったところ、ポクッと異音が鳴ったのだ。
おまけに痛みは・・・なかった。ちょっと違和感がある程度で、大した痛みではない。
(あれ?懐に板チョコ入れてたっけ・・・?)
そんな勘違いをしそうなほど、自分の体内からなんともいえない快音(?)が響いただけだった。
それにしても、いくら老人に片足を突っ込んだ年齢とはいえ、自らの筋力であばら骨に影響を与えることなど、あり得るのだろうか。
つまづいて転んで骨折・・とか、骨粗鬆症の進んだ高齢者の腕をつかんで骨折・・という話を聞いたことがある。だがこの若い老人は、己のチカラでそれを成し遂げたのだとすると、それは骨がもろいのか筋肉が強いのか、いったいどちらなんだろう。
くしゃみ・咳・深呼吸が禁忌であることに加え、笑わされることが一番の苦痛となるこの状況下、よりによって面白おかしいことがちょこちょこと発生するのは神のいたずらか——。
とかなんとか言いながら、ソファへ横になるわたし。左のあばらが痛いのだから、右を下にして・・・
(い、痛い)
左を傷めたのだから右を下にすればいいはずだが、なぜか重力に押される形で傷みを感じるのだ。かといって左を下にしても当然ながら痛い。ならばと上を向いたところで、肺が膨らむたびに痛みを感じる。
要するに、あの音は板チョコを割った音などではなかったのだ。わたしのあばら骨になんらかの異変が起きた音だったのだ。
*
(あぁ、こうなったら本当に分厚い板チョコをパキッと割って、むしゃむしゃ頬張ることで忘れ去りたい・・・)
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