久しぶりに服を買いに出かけた。
そもそも外出しないのと、出かけるにしても行き先はほぼ道場のため、オシャレをする必要がない。
しかしそんなことを言っているといつまでたってもモテないので、何年かに一度はオシャレ着を買おうと思う。
オシャレ着と言っても基本はデニムだ。ツルツルスベスベした素材の服など、着たらおかしなことになる。ファッションとは残酷なもので、細身の体型を太らせることはできても、ガッチリとしたフォルムを華奢にすることはできない。
シルク生地のワンピースを試着したことがある。デコボコの腕や腹に沿って、滑らかな光沢がさらなる重厚感を強調していた。さらにスカートから生える2本の脚は、古代ローマの神のようだった(イメージは、テルマエ・ロマエに登場する男性陣)。
*
お目当ての店舗へ到着。国産のデニムばかりを取り揃えたセレクトショップでしばし物色する。
店長と思われる男性が、わたしをピッタリマークして離れない。さすが、買う気のある客に対する嗅覚は確かだ。
いくつかのジャケットやシャツを試した結果、一着のニットを買うことにした。男性用だがSサイズなので、体格がゴツイわたしでもややゆったりと着れる。
しかもラスト一着で割引になっている。
ーーこれで初夏まではオシャレさんだ
満足したわたしは颯爽とレジへ向かう。ちなみに本日も手ぶらだ。ケツのポケットにスマホを挿しているだけ。
レジで嫌な予感がする。最近よく見る「ご利用可能な決済方法」の看板が見当たらない。
丁寧にニットを畳むは、マンツーマンでマークされ続けたあの店長。そんな彼に一言、
「支払方法って、何があるの?」
わたしは尋ねる。
「現金かクレジットカードになります」
ーーやっぱり。
恐れていたことが現実となった。しかし今さら錬金術も使えないわけで、本当のことを伝えるしかない。
「アタシ、金もクレカも持ってない」
店長の手が止まる。
「スマホあるから、電子マネーならいけるんだけど」
無理に決まってる。
しかし店長、誰も買わなかったこのメンズSサイズのニットを何とかして売りたいはず。だがこの客は金がないとほざく。それでもどうにかして売りつけたい。そんな葛藤の中、か細い声で「どうしましょう」と呟く。
そこでわたしは「思い切った提案」をした。
「金、貸してくんない?」
ぽかんとした表情の店長に向かって、すかさず続ける。
「今すぐ、口座でもどこへでも振込むからさ」
我ながら名案。こちらが先に金を振り込めば、立て替えてもらうことに怪しさはない。ついでにさらなる妙案まで思いついた。
「あ、PayPayとか楽天ペイとかある?そのほうがすぐに確認できていいよね」
すると店長「PayPayならある」とのこと。
早速、彼のPayPayへ消費税とニット代を送りつける。着金確認後、店長は自らの財布を開き現金を取り出すと、レジへと納めた。
「ありがとうございました!」
お互いの目的が達成されたため、晴れやかな表情の店長とわたし。
これこそが、DX(デジタルトランスフォーメーション)がもたらす、進化系の支払方法といえるだろう。
Illustrated by 希鳳
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