私は文章を書くのがどうも苦手だ。
かれこれ半年以上、ある程度のボリュームの文字数を書き続けてきたが、一向にコツをつかめない。
それでも書き続けていれば何か見つかるかもしれないと、無心に書き続けたが光は見えない。
他人の原稿はどれも立派で読みごたえがある。
それに比べて私のはーー
誰かに評価されるために書いているわけではないが、その評価を目にする機会があると少なからずショックを受ける。
そんな半年間だった。
*
悩み疲れた私は、友人に胸の内を語ろうとラインした。
「気分がしずんでる」
「トランプが負けそうだから?」
この時点で少し口元が緩んだが、無視。
「うーん、無敗の連勝馬じゃないなら負けてもノーダメージ。
出走しなきゃ勝てないし、どんどん走らせたほうがいい」
これは競走馬に話を置き換えての説明。
たしかにG1連勝中の3冠馬が負けることは、記録にも種付の値段にも影響する。
しかし無冠の競走馬は「まず一勝」の思いで走り続ける。
だがそれを言ったら、私だって一勝したくて毎週レースに出走してきたようなものだ。
それでもまったく勝てない。
「6、7年惰性でやってるパズドラが最近、急に上手くなったなんだよね。
組み方とか変わってなくて、視点(目線)がちょっと変わっただけなんだけど」
これはゲームの話だが、なんとなく分かる気がする。
本腰を入れずにダラダラ続けてきたゲームでも、ある日突然コツをつかむことがあるらしい。
ただし友人にはゲームの適性がある。
つまり、元からゲームのポテンシャルが高い人間が惰性でゲームを続けてきたという点が、一般人の惰性とは異なる。
さらにこう続けた。
「おまえの真骨頂は道具を使うことじゃない。
ただ単に蹴るとか殴るとか、しっかり握って引っ張るとかだから」
なんだそれは!
まるで私が脳みそ筋肉の原始的な単細胞だと言われているみたいじゃないか!
「柔術でも大事でしょ、崩すこと」
確かにそのとおりだ。
技をかける前にまず、相手の体勢を崩すことが重要。
つまり私にとって技はオマケで、引っ張るところがメインだと言いたいらしい。
「だからある程度の文明の文章を書く行為は、苦手に感じて当然だよ。
そのかわり『私の得意なことは引っ張ることだから!』って思ってればいい」
なんだかわかったようなわからないような。
とりあえず友人にお礼を言うと、「礼には及ばない、その逆も然りだから」と返してきた。
「俺にとっては、おまえが最終兵器として控えてる安心感が常にある。
核保有国と同じ立場だ」
結局、私は今後どういう心構えで文章を書けばいいのかわからないまま終わった。
*
とある記事について、この友人と私の意見が一致した。
その記事とはあるライター(偏屈なオッサン)が書いたものだ。
彼の代表作といえば、当人が関わってきた企業再生の現場についてリアルな描写がウリの臨場感あふれる立派なコラムだ、と本人は思っているだろう。
しかし我々の見解は違う。
明らかに抜きんでて評価の高い、一つのコラムで一致した。
内容は省略するが、就職での英語面接の場面。
父親の職業を聞かれた際、
「My father is Official」
と答えたらしい。
すると面接官が何らかの返答をし、また素っとん狂な返事をしたため大爆笑で終わった(不採用)という話だ。
これは読んでいて片腹痛い。
このコラムこそ、偏屈なオッサンの人柄を如実に表す代表作だ。
彼の父親は公務員ゆえ、プチパニックのなか「Official」と表現してしまったと本人は書いている。
しかし、それでおよそ通じているはずだ。
a local official(地方公務員)
a city official(市・区役所職員)
という感じで、Official だけならば最も大きなポジション=政府官僚と捉えられる可能性が高い。
さらに発音が悪く、Officer とでも聞き取られていたとしても「警察官」で丸く収まる。
不定冠詞(an)がなかったことが影響していたかどうかは不明だが、会話であれば an が聞き取れないこともあるので、質問が正しければ会話になるはず。
アメリカの友人らにも確認したが、Official は政府の役人を指すということで間違いない。
つまり大きくはずれた答えではないのだ。
しかし、Official と答えた次の会話が血縁について(らしい)なので、噛みあっていない。
私は思った。
噛みあっていないのは「Official」と答えたからではない。
その前の質問が、じつは違っていたのではなかろうか。
ーーこんなところまで物語の面白さを引っ張るオッサンは、素晴らしい才能を持ったライターだと感心した
*
自分にとって最高の作品が、他人にとっても最高とは限らない。
他人を思って必死に書いたコラムが、他人に響くとも限らない。
であれば、せめて自分だけは満足できるものを作り上げるしか道はない。
だれも褒めない、
だれにも求められない、
だれからも評価されない。
こんなみじめな状況でも続けたいのならば、自分くらいは満足しなければやってられないだろう。
でも、
それはそれでいいじゃないか。
Illustrated by 希鳳
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