私のサテライトオフィスはスタバだ。
つまり、私のサテライトオフィスは全国1,582カ所にある(本日現在)。
なにを隠そう、海外にも私のサテライトオフィスは点在する。
その数22,000カ所以上(本日現在)。
私は世界を飛び回るビジネスパーソンゆえ、サテライトオフィスの存在が重要だ。
もちろん今も、スターバックス目黒店でグランデアーモンドラテ(ホット)を片手に仕事を進めている。
*
今の時期、屋外にいればものの5分で真夏を満喫できる。
そのため、猛暑から避難するべく涼しいスタバへと逃げ込むこととなる。
スタバは冷房完備なうえにWi-Fiが無料で使える、最高のオアシスだ。
そんなスタバだが、コロナ対策で客席数が半分になっているため、座席確保の争いは熾烈を極める。
さっき、かわいらしいカチューシャを付けた女性とほぼ同時に入店した。
しかし、彼女のほうが一歩だけ早かった。
かわいらしいカチューシャは背中で私をブロックし、肩に掛けていたエコバッグを唯一の空席へ投げた。
奴のトレーダージョーズが、見事に椅子へ着地した。
(チッ)
私は負けた。
店内を見回すも満席だ。
入店早々、辛酸を嘗めさせられた。
敗者となった私がすごすごと店を後にしようとしたとき、仕事のできそうなサラリーマンが急にパソコンを閉じて席を立った。
しかもそこは、8人掛けの最も奥。
角っこなので広々と自分の荷物が置ける空間だ。
仕事ができそうなサラリーマンは、こういう部分でも仕事ができるものだ。
――これこそが徳を積んだ人間が受けるべき正当な評価だ!
こうして私は、総合的に見てカチューシャに勝った。
*
我がサテライトオフィスは冷房が強い。
これは、ボスである私以外の人間に長居をさせないための工夫だ。
夏と言えばタンクトップにショーパン、サンダルが定番のユニフォーム。
この「屋外仕様の格好」でサテライトオフィスに入ると、30分で退店を余儀なくされる。
そう、冷房により低体温症の一歩手前まで追い込まれるからだ。
客席数に余裕のあったころは、天井のエアコン送風口から離れた場所を選んだり、店の入り口付近で外気が入る場所を選んだりしていた。
しかし、店舗によっては天井が低く、冷気がダイレクトに直撃することもある。
こうなると、もはや拷問だ。
先日、スタバでミーティングをした時のこと。
事前の打ち合わせも含めると2時間半以上の長丁場となった。
ミーティング開始から1時間が経過したころ、寒さに耐えきれなくなった私は、全身鳥肌で苦痛に顔を歪めていた。
それを見た友人(弁護士)は、そっと、日経新聞をテーブルの下から差し出してきた。
私は、その一番上のページをはぎ取ると、マントのようにかぶった。
残りの新聞も全部広げて、太ももの上に並べたりふくらはぎや腹に巻いたりした。
――新聞紙は最強だ
感動と同時に、ホームレスの賢さとあざとさを知った。
あれから外出の際は、薄手のパーカーをリュックに突っ込んで出かけるようになった。
真夏とはいえ、防寒具が必需品というおかしな時代だ。
*
しかし、薄手のパーカーを羽織っていたとしても、下半身の熱は奪われる。
つま先までむき出しの両足は、3時間もすると感覚を失い仮死状態となる。
布の面積を増やせばいいじゃないか、と思うだろう。
もしそれをしてしまったら、いったいいつショーパンを履くのだ。
繰り返すが、夏と言えばショーパンタンクトップサンダル、これが定番だ。
この法則に逆らうことは、自然の摂理に逆らうことと同じだ。
サテライトオフィスによってはブランケットが置いてある。
だが、若干潔癖傾向の私は、他人が使用したブランケットを地肌に当てることができない。
では、外出時に自らブランケットを持ち歩けばいいのか?
・・それではミニマリストのポリシーに背くこととなる。
私は、服装で真夏を堪能できないことに憤りを感じた。
*
そんな今日、ピアノのレッスンで先生のお宅をお邪魔した。
裸足でスリッパを履くことに抵抗があるので、毎回、靴下を持参している。
レッスンが終わって帰る際、たまたま靴下を脱ぐのが面倒に感じた。
そこで私は、靴下を履いたままサンダルを履いた。
――ビルケンのサンダルに靴下は、滅茶苦茶ダサい。
しかしそれ以上に、早急に済まさなければならない仕事があったため、そのダサい足元のままサテライトオフィスへと向かった。
入店時の座席獲得争いに負けた直後に逆転ホームランを放った私は、仕事に没頭して2時間が経過しようとしている。
ところが、
今日に限ってなぜか寒くない。
太ももは触れると冷たいが、仮死状態になるほど冷え切っていない。
腕は鳥肌が立っているが、それでも耐えられる程度の寒さだ。
――これは、靴下のせいか?
こんなわずかな布面積(靴下)が、私の両足に命を宿らせてくれているのだ。
見た目は超絶ダサいが、そのおかげで何時間でもサテライトオフィスに居座ることができる。
――真夏なのに極寒のスタバで生存する術を身につけた私は、優雅に6杯目のグランデ抹茶ラテ(ホット)を注文しているところである
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