選挙における特殊作戦群の活躍ぶり

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友人のイワンコフが、地方選挙(大阪)に出馬することになった。私は東京から大阪まで毎月1回、選挙活動(政治活動というべきか)の手伝いに通った。

「くだらない」と思ったのは、選挙に出馬する人は、公示(告示)前に「選挙運動」をしてはならないということ。――では、何ならいいのか?それは「政治活動」らしい。

 

完全に ”揚げ足取り” の感が否めないが、公職選挙法上そのように定められているから、法の目をかいくぐるしかないらしい。実にくだらない。

 

 

選挙(政治)活動には、「駅立ち」や「辻立ち」と呼ばれる演説方法がある。これは駅や交差点に立って、自分はこんな街づくりを目指しています!とか、こんな未来を作りたいです!とか、到底達成出来そうにない夢や目標を堂々と語ることだ。

大阪生まれだが大学から上京していたイワンコフ、すっかり東京の人に成り下がっていた。そのため、大阪市某区のベテラン区民たちから、

「東京に魂売ったモンが、偉そうなこと言うな!」

「兄ちゃんみたいなトッポイのは、ウチの区にはおらん!」

などなど、だれ一人として応援してくれる有権者はいなかった。

 

 

ある日、酔っぱらったオッサンがイワンコフに絡んできた。

「アンタ、キレイごとばっか言いよるが、ぶ、ぶろーくういんど、知っとぉか?んん?」

「えっと、Broken Windows Theory(割れ窓理論)のことですか?」

「んぉ?お、おぉ、それや」

「ジュリアーニ市長が治安対策として用いた理論ですね、それがどうしました?」

「・・・知ってればええんや。ほなな!」

 

(・・大阪って、面白い街だな)

 

こんな感じの駅立ち・辻立ちによる「政治活動」を半年くらい続けた。

 

ちなみに演説する際に「タスキ」を掛けるのだが、これもまた公職選挙法により、立候補予定の者は、公示(告示)前に自分の名前を宣伝してはならない(事前運動の禁止、文書図画の掲示の規制)らしい。よく見かける「本人です」のタスキは、このためだ。

あぁくだらない。

 

 

投票日まで1か月に迫ると、いろいろ人が応援や手伝いにイワンコフ事務所へ訪れ始めた。

振り返ってみると、だれ一人として純粋にイワンコフの「当選のため」には集まっていなかった気がする。まぁそれが選挙であり政治なのだろう。

 

定期来阪したある日、美人が一人と普通が一人、年上の女性が一人、イワンコフ事務所で留守番をしていた。聞くと美人はイワンコフの義理の姉、普通はイワンコフの彼女(らしい)、年上の女性はイワンコフの母だった。

適当に挨拶をし、いつものごとく駅立ちの手伝いに向かった。

 

私は美人が好きだ。駅立ちが終わり事務所へ戻ると、早速、イワンコフの義姉と仲良くなった。

「ウチな、『東京からモデルが来る』って聞いて楽しみにしてたんやで」

「え、それってあたしのこと?」

「そうやで。だからドア開けてアンタが入ってきたとき、筋肉とか人体模型のモデルさんやったんか~って思ったわ!」

 

(・・さすが関西人)

 

この日を境に、我々は常にペアで「政治活動」のお手伝いをした。

(主に喫茶店でオシャベリ)

 

 

そうこうするうちに、いよいよ告示日を迎えた。いったん東京へ戻った私は数日後、再び大阪を訪れたのだが、イワンコフ事務所にはこれまで以上に人が集まっており、いかにも「もうじき選挙だ!」という活気に満ちていた。そして意外なことに女性が多かった。

美人義姉はニヤニヤしながら

「アンタに面白い報告があんねん」

と私を喫茶店へ連れて行った。

「あれからな、いろんなオンナが現れてんで。ウチ、イワンコフの義理の姉やんか?だからみんなウチを取り込もうと必死やねん」

「え?!まさか今日いたあのへん、全員そうなの?!」

「そうやで。元カノとかもおるんやろけど、全員ソノ気で来てるで」

「マジで???」

「マジやで。”ウチがイワンコフを当選させます!”とか宣言しとったのもおるで」

もはや聞いているだけで笑いが止まらない。そこで我々は、それぞれの「彼女」に勝手にニックネームを付けた。

 

まずは「バードレッグ」。12歳年上の彼女は、大学院時代の同期らしい。「なんでこんな賢そうな女性が、イワンコフなんかの手伝いにわざわざ来るんだろう」と不思議に思っていたのだが、これで謎が解けた。

 

そして「保育士」。これまた5歳年上の、色白でふっくらしたかわいらしい女性。本人曰く「我こそが現職の彼女」らしい。たしかにしょっちゅう手伝いに来ている。

 

さらに「できる子」。またもや年上でハキハキした活発な女性。こちらも大学院時代の同期らしく、ポジション的には元カノ?くらいか(後に判明するが、交際期間が「鳥足」と重複していた)。

 

他にも、花屋のバイト」「ウタマロ」「韓国系アイドル」などなど、どれが本物か分からない「彼女」がわんさか出てきた。

・・もはやコントだ。

 

しかし、これでハッキリ分かった。なぜ事務所内であんなにギスギスした空気が流れていたのか。なぜ女性陣が殺気立っていたのか――。それは全員が全員、

「我こそがイワンコフに頼られている彼女だ!」

という自負があったからだ。

 

 

私は半年間、はるばる東京から大阪まで、選挙の手伝いのためだけに通った。イワンコフに頼まれたから、というのもあるが、私が社労士の仕事を始めた頃、イワンコフに「大きな借り」を作っていた。その「借り」を返すチャンスがこの選挙だと思い、全力でサポートしたのだ。もちろん、交通費も宿泊費も報酬ももらわずに、ボランティアで。

ならば・・・

 

まずは「できる子」を呼び出した。そして洗いざらい現状を伝えた。すると、

「はぁぁぁ??マジで?!キッモ!!!!」

次に「保育士

「やっぱり。なんかおかしいと思ってたのよね。でも今は私が彼女だから」

(うーん、どうだろう)

「バードレッグ」へ行こうとすると、「できる子」が何やら恐ろしい形相で彼女と話をしている。

(あ、これ話したな)

私は再び、美人義姉と喫茶店で落ちあい結果報告をした。

 

投票日まであと数日。誰が「選挙カーで最も優位なポジション=現役彼女の座」に就くのか火花を散らす最中に、私が特殊作戦群としてデカい爆弾を投下してやった。

女性陣の表情は、怒りや悲しみを通り越し、般若、いや阿修羅のようだった。事務所の雰囲気は、それこそ筆舌に尽くしがたい状況になっていた。

 

無事任務を遂行したところで、投票日を待たずして私は東京へ戻った。

 

 

その後も随時、美人義姉から報告があった。驚くことに、空中分解したと思われた女性陣が再集結したのだそう。

その際「私は、いついつ付き合っていました」と暴露しあい、交際期間の重複が次々に発覚。泣いたり怒ったり大変な騒ぎになったが、最後は一致団結し、

「イワンコフが落選するも当選するも、私たち次第。ならば当選させて、一発ずつ殴って解散しましょう」

となったらしい。

 

 

オンナとは恐ろしい生き物だ。それと同時に、計り知れないパワーを秘めていることも事実だ。オンナを敵に回すと、想像以上の地獄絵図が待っているかもしれない。

世の男性はぜひとも気を付けてもらいたい(とくに、特殊作戦群に)。

 

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