「キモい」は褒め言葉!

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(運動神経って、実際のところ何なんだろう・・)

いわゆる「スポーツ万能なヒト」のことをそう呼ぶのだろうが、そうなると実際にスポーツ競技をやらせてみないと分からない。

そして憶測だが、おそらくスポーツは——特に球技は苦手なのではなかろうか、と勝手に想像できてしまうような風貌の、小太りで眼鏡をかけた冴えない男性であるにもかかわらず、驚くほどキレのあるダイナミックな動きを見せられると、怖いもの見たさに思わず目が釘付けになってしまうのである。

 

もしかすると、あの動きを韓流アイドルやLDHのアーティストが再現したら、ごくごく普通のカッコいいダンスになるのかもしれない。そうなると、見た目や衣装がいかに重要であるかが証明されるわけで、「ヒトを見た目で差別をするな!」という話になる。

・・だが違う。小太りメガネでパーカーにジーパン、あるいは上下黒の装い、はたまた祭りのようなはっぴ姿のオトコ(たち)が、両手にサイリウムを装備し、壊れたマシンのようにジャンプをしたり腕を回したりしながら、「ア・イ・シ・テ・ルゥー!!」と枯れんばかりに叫んでいる——そう、これは推しのアイドルを支える”ヲタ芸師”の話なのである。

 

ちなみに、彼らが持つ能力(?)の中でも圧倒されたのは、推しのステージが終わった瞬間、まるで何事もなかったかのようにスッと椅子に座り気配を消したことだ。

さっきまで、ステージ上のアイドルよりも目を引く動きで観客席を賑わわせていたにもかかわらず、サーッと波が引くかのように誰も居なくなる——正確には、パイプ椅子に着席することでその他の一般客に紛れこみ、自らの存在を消してしまう・・というスゴ技を披露するヲタ芸師の皆さん。

(・・アレ?!さっきのヒトたち、どこへ隠れたんだ?!)

目を離した一瞬の隙に彼らを見失ってしまったわたしは、改めて彼らが持つ隠密スキルとヲタ芸にかける熱量に驚かされた。そして、自らの推し以外は静かに見守るスタンスで、また新たな推しが現れるとスクッと立ち上がり、まるで別人格であるかのような”ヲタ芸モード”に突入するという、凡人には不可能であろう切り替えの速さを見せるのであった。

 

それにしても、あのヲタ芸における動きのキレというのは、とにかく独特なものがある。表現が難しいのだが、「あえてダサいフリをしている」というか、自らが道化になって推しに花を添えているかのような、それでいて全身全霊を捧げているかのような集中力と熱量は、あたかも「この世に生を受けたオトコとして、持っているもの全てを出し尽くすのだ!」と主張しているかのような、ある種の「凄み」を感じる。

そしてまた不思議なことに、ダンサーやバレリーナが同様の動きを再現しても、それはただ単に「美しいムーブ」というだけで、ヲタ芸が内包する漲(みなぎ)るパッションは感じられない。要するに、ある程度の素人っぽさが必要・・ということなのだ。

 

とはいえ、彼らが放つあの「凄み」の正体は、いったい何なんだろう——。全身を使った感情と表現力の極致といっても過言ではないほどの、なんだかよく分からないウェットな凄みを感じるのは、きっとわたしだけではないはず。

また、プロスポーツ選手のように”プロのヲタ芸師”というのも存在するのだろうが、そのジャンルのプロを名乗るには、やはり素質というか特性のようなものが必要だと思われる。無論、見た目や身体的な特徴で区別(差別)をしてはならないのは当然だが、そうは言うものの「非モテのデブが一点集中でキレッキレの応援ダンス」を披露したら、それこそ怖いもの見たさで目を奪われること必至。

少なくともわたしならば、イケメンで腹筋バキバキの陽キャダンサーよりも、ブサメンで脂汗ダラダラの陰キャヲタ芸師のダンスに惹かれるわけで、これもまた不思議な相乗効果と言わざるを得ないのである。

 

 

というわけで、池袋西口公園を通りかかったところ、若さ(だけ)がウリのアイドルグループと、それを支えるヲタたちの熾烈なセッションが行われており、それを生温かい目で見守る外野(わたし)という構図による、微妙な数分間についての話であった。

 

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