人生で一度だけ、目が合っただけで手が震えた男がいる

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はじめまして。

今日はウラベリカさんに代わり、臨時代理のトスンパがお届けします。

以降、たまに出没するかもしれませんので、どうぞお見知り置き下さい。

 

***

 

私は人生の中で2回、他人にお金を貸したことがある。

1回目は、飲み屋の姉ちゃんに10万円。

2回目は、取引先の中堅エンジニアに10万円。

 

飲み屋の姉ちゃんは、当時の勤務先の社長が通い詰めていたお店のホステスさんだ。

もっとも、社長にはお店に別の愛人がいたので、特別な関係はない。

そんなこともあり、世間知らずで純情な腰巾着(私)に目をつけたのだろう。

ボディタッチが多めで、しつこくアフターを持ちかけてくるような怪しい女性だった。

 

そんなある日、

「どうしても相談に乗ってほしいことがある」

と、半ば強引にアフターに連れて行かれたことがある。

そして近くのお店で飲みながら話していると、彼女は壮大な身の上話を始めた。

 

父親は、日航ジャンボ機墜落事故の犠牲者であること。

お父さんが事故で死んだ後、お母さんの心が壊れたこと。

そのため、自分は高校を出てからずっと水商売をしていること。

さらに、母親の作った借金を返すために飲み屋だけでなく、ファッションヘルスでも仕事をしていること。

 

なかなかすごい話だ。

本当ならば。

 

で・・・なんだというのか。

この話の落とし所は何なのだろうと、早く帰りたいなあと眠そうに目をこすっていると、彼女はどストレートで切り込んできた。

 

「これまで頑張って生きてきたけど、お母さんの借金返済が苦しい。来月末の30万円の返済が、どうしてもできそうにないの・・・」

 

でたよ・・・。

そんな気がしていた。

 

「なるほど。つまりお金を貸して欲しいということですか?」

「・・・ごめんなさい。助けてくれたら嬉しい。」

 

波風を立てたくない人間関係であればあるほど、個人間でお金の貸し借りなどするものではない。

理不尽な話だが、お金を貸したら、最後は絶対に恨まれる。

下手したら、殺されかねない。

だから当然、答えはNOだ。

 

そう思い、(ごめん、金は貸せない)

と言いかけた時、覗き込んだ彼女の目に、ほんの少しだけ

「これは嘘の話ではありません」

と書いてあった気がした。

なんとなく、本当の事を言っている気がした。

だから、

「わかりました。10万円だけ貸します。後はなんとかして下さい。」

と言って、すぐに近くのコンビニで10万円おろして、彼女に渡した。

 

すると、なんと1週間後に、

「これ返します、ありがとう。」

と言って、お店で封筒を渡された。

中には、12万円が入っていた。

 

まさか・・・

返ってくると思ってなかったお金だったので、正直感動した。

そして、

「この目は嘘をついている人の目ではない」

と直感で信じた自分にも、少しだけ感動した。

オレ、マジでカッコイイ。

 

ただ、後日知った。

何のことはない、彼女はウチの社長の愛人になって、急に金回りが良くなっただけだった。

若い女の眼力など、信じるものではない。

運良く10万円を利息付きで回収できたけど、もう二度と女に金なんか貸さねえ。

っていうか、氏ね。

 

狂気の目に本気で震えた

 

人生で2回目、赤の他人に金を貸した経験は、取引先の中堅エンジニアだ。

その時も10万円だった。

その時私は、会社を創業してまだ2週間くらい。

社員の人生を背負ったこともなく、会社を潰しかけたこともないので、ぶっちゃけまだまだ殺気が足りない甘ちゃんだったと思う。

そして、人間のクズは、そういう人間に近づいてくる。

 

「トスンパさん。今回発注して頂いたお仕事、私がSEをやります。どうぞ宜しくお願いします。」

「あぁ、ありがとうございます。」

(中略)

「ところでトスンパさん、会社の資本金は500万円ですよね?」

「ん?そうですよ?」

「よく500万円も集められましたね。今ならまだ創業したてですし、ほとんど現金で口座にあるんですよね?」

「(・・・何が言いたいんだこのクソガキ。)」

「実は、私の姉が病気で入院することになりまして・・・」

「・・・で?」

「病院から、100万円ほど治療費が掛かるって言われてるんです(ニヤニヤしながら)。」

どこまでザルな設定なんだこのクソガキは。。

ただ、うちの会社の基幹システムを現在進行形で握っているSEだと思うと、下手なことはできないと、おかしな思考回路が働く。

 

「入院治療費は、先払いを求められてるのですか?」

「いえ、予め用意しなきゃいけないかなと思って・・・」

「そうですか、高額療養費制度って知ってますか?」

※医療費が仮に100万円かかった場合でも、自己負担は8~9万円程度で済む健保の制度

 

その瞬間、若造SEは思わぬ行動に出た。

飛び跳ねたようにイスを蹴って床に土下座し、

「お願いします、トスンパさん!私にもチャンスを下さい!」

「・・・何のチャンスだよ」

「トスンパさん、会社を起こして夢を叶えましたよね?」

「(・・・アホかこいつは)」

「ボクだって、夢があるんです!姉の病気を治す夢です!だから100万円貸して下さい!」

 

そう言って土下座から顔をあげ、ヤツは私の顔を覗き込んだ。

その目が、完全に笑っている。

泣きそうな顔を作りながら、目が完全に笑っているのだ。

 

「(こいつやべえ・・・目的のためなら何でもする目をしてる。。)」

本気で、そう思わされた。

つまり、そう思わされた時点で完全に私の気合負けだ。

正直、少し手が震えた。

コイツの要求を論破して一蹴すると、下手したらうちの会社のシステムに爆弾を仕込まれる。

もう完全に、私の負けだ。

 

「・・・おい、わかった。貸してやる。(もはや敬語ですら無い)」

「本当ですか?」

「但し、10万円だ。その10万円を、来月の10日までに必ず返せ。そしたらお前が金を返す意志があるやつだと判断して、その後のことを考えてやる。」

「必ず返します!ありがとうございます!」

 

私は結局、このキチガイに10万円を貸した。

そして、一連の経緯をその会社の社長の耳にも入れて、

「お願いですから、変な影響が出ないようにしてくださいよ?」

と念押しした。

社長は平謝りで、

「自分が必ずPJを直接管理します」

と約束してくれた。

 

しかしこのキチガイは、返済期限の2日前に行方不明になった。

そのまま会社をバックレて、二度と現れなかったそうだ。

結果として、ウチのシステムは正常に稼働し事業も立ち上がったが、あのキチガイを一蹴してたらどうなってただろう。

既に逃げるつもりで無心を申し入れてたなら、まあただでは済まなかったような気がする。

 

結局のところ、

「アイツに頼めば、カネを貸してくれそうだ」

という甘々な空気を、私はまとってたんだろう。

心身ともに気合の足りない、本気度の足りない人生を送ってたんだろうと思う。

だから、キチガイとまともに目が合った時に手が震え、気後れしてしまった。

 

犬と猫の喧嘩を見て、つくづく思う。

体が大きく、筋肉量でも勝っているのに、犬は猫に本気で威嚇されたら、だいたい逃げる。

中学生のケンカは、腕力勝負ではなく、キチガイ比べだ。

10万円という授業料を支払ってしまったが、そのことを改めて教えてくれたあのキチガイには感謝している。

だいたいの勝負事は、本気なやつが勝つ。

 


アイキャッチ画像出典: 内閣府「薬物乱用対策マンガ

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1件のコメント

60万のところ、40万円でいいので振り込んでもらえませんか?
早くに両親を亡くし一人っ子の私はいま、病魔に侵されているんです。
手数料はこちらで負担するんで。

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