吾輩は渡辺謙である 髪の毛はまだ無い

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3日前に続いてのトスンパである。

私はいい年をしたオッサンだが、未だに小学生のように、誰とでもすぐに友だちになろうとする無邪気なところがある。

財産も社会的地位も無いので好き勝手できるということもあるが、まあとにかく心身ともに身軽だ。

 

居酒屋でちょっとおもしろそうなグループを見かけると、

「ちょっとオッサンも混ぜてよ!」

と言いながら、20代自衛官と看護師の4対4の合コンに乱入したこともある。

そして調子に乗りながら大騒ぎして、

「よっしゃ!ここはオジサンのおごりだ!みんな好きに飲み食いしろ!」

と言ってしまい、翌日の夕方に二日酔いの頭を抱えながらクレカの控えを見て青ざめたこともあった。

 

後日、自衛官の若者から、

「楽しかったっす!ありがとうございました!」

と、一緒に肩を組みながら酒を飲んでいる写真が送られてきたので、きっと喜んでくれたのだろう。

俺、若い自衛官を励まして良いことをした。

(∀`*ゞ)エヘヘ

 

ただ途中で、カップルが成立しかけている2人に絡み、看護師さんから、

「トスンパさん・・・ここが病院なら、肛門から鎮静剤射ってますよ?」

と、冷めた笑顔でニッコリと言われたことだけはなんとなく覚えている。

看護師さん、怖い。。

 

そんな私だが、先日なじみの寿司屋で一人飲みしていたときのことだ。

小汚いカウンターに座り、小汚い70過ぎの大将に寿司を握ってもらいながら、お返しに日本酒を奢りつつ、二人で楽しんでいると、年の頃60歳くらいのおっちゃんが入ってきた。

「大将、世話になるで!」

気安い雰囲気から、このオッサンも常連であることはすぐにわかった。

しかし着ているもの、全身から感じる雰囲気が明らかにイケオジなのである。

 

イケメンというわけでもなく、決してハイブランドを着ているわけでもない。

しかし全身から品の良さや内面のカッコよさが溢れている。

何よりも、年齢の割に髪型がメチャメチャオシャレなのである。

 

こんな人を見かけたら、黙っていられないのが私だ。

さっそくお銚子を片手に席を一つ詰めると話しかけ、酒を注いだ。

「いきなりすみません・・・オジサン、めちゃめちゃカッコイイですね」

 

幸い、相手のオッサンも3件めくらいだったのか、すでに相当酔っ払ってる。

そのため、「お?ホンマに?」というような受け答えで気軽に乗ってきたではないか。

 

「オジサン、全身から感じる雰囲気もイケてますが、何よりも髪型がかっこいいですね。どんなオーダーしたらそんなカッコよくなるんですか?うらやましいっす」

「そうか?アンタかて、少し伸ばしたらこれくらいできるで?」

「いえいえいえいえ、私はハゲですから。もう諦めてるんで清潔感だけを出すのに、こうやって丸坊主にしてるんですよ」

「もったいないなあ。アンタ、ぜんぜんハゲちゃうよ」

「ムチャ言わないでくださいよ~もう、どう見てもハゲてるじゃないですかwww」

「俺、理容師やで。理容院も美容院もいくつか経営してるんで、髪を見る目は間違いないよ?」

「・・・・・・・・・・・・へ?マジッスカ?????」

 

聞けばそのオッサン、地域で手広く理美容院を経営する本物のイケオジだった。

寿司屋の大将も、「トスンパちゃん、この人、すごく儲かってるんやで~」などと合いの手を入れる。

その場でスマホで調べても、どうやら嘘偽りはないようだ。

そんなオッサンとこの場で会えるなんて、まさに神の思し召しというものだ。

私はすぐにオッサンに食いつき、こんなことを叫んだ。

 

「おっちゃん!オレを渡辺謙にできますか!!!」

「渡辺謙?あぁ、ハゲてるのにかっこいい人やね。こんな感じか?」

そういうと、めちゃめちゃイケてる謙さまの画像をスマホに映し出すではないか。

「そう!!!これ!!!!」

「アンタ、顔の形も悪ないしいい感じで寄せる自信あるよ。ただ、半年ほど時間ちょうだい。髪の毛伸びる時間だけはオレにはどうにもできんわwww」

「半年!!!お安い御用です!!!」

 

そして私はその場で名刺交換すると、後日、必ずお伺いすることを約束した。

この後は寿司屋の大将、散髪屋の大将、私と3人でアホみたいに飲みまくり、どうやって家に帰ったのかも正直、余り覚えていない。

ただ、寿司屋の大将がツケ場の中で飲んでるのがまどろっこしかったんで、

「大将!もう今日はこっちに来て一緒に飲みましょうよ!」

と誘い、カウンターに座りながら3人で飲んでいたことを覚えている。

 

「ワシ、この店もう50年やってるけど、営業中にカウンターに座って客と飲むのはさすがに初めてやわwwww」

などと、大将もいっていたので、かなりヘベレケだったのだろう。

次に行くときが、楽しみである。

 

***

 

そして私はいよいよ、渡辺謙になるべくオッサンにメールを入れ予約をすると3日後、指定された理容院に行った。

到着すると、想像以上にキレイである・・・

私がいつも行く安物の散髪屋と違い、何から何までゴージャスだ。

この店の雰囲気に加え、寿司屋で会った時よりもさらにイケオジに見える、仕事着姿のオッサンの雰囲気・・・

俺は間違いなく渡辺謙になれる気がする。

 

「先日はありがとうね。俺も酔っ払って、全然おぼえてないんやけどw」

「私もですよ~ただ、渡辺謙にしてくれるって言うんで、すぐに飛んできましたww」

「そうやね、こないだも言ったけど、まずは髪の毛伸ばそうか?今日は両サイドを落とすだけにするで」

「はい!お任せです!」

 

そしてバリカンで軽く両サイドを落としてもらい、トップをジョキジョキと調整するだけで散髪は終わった。

「トスンパちゃん、すごく粘っこいヒゲやなあ・・・こんなヒゲ、40年仕事してる俺でも指折りの粘っこさやで。でもこれ、良い髪質ってことなんやで?」

顔剃りをしながら、店主が心地よくなる会話を仕掛けてくる。悪い気はしない。

 

そうか~俺、まだまだハゲじゃないんだ。

もし髪の毛が伸びたら、どんな髪型にしようかな~

久しぶりに整髪料を付けて、前髪を垂らしてみようかな~

などと、妄想にふける。

 

「どうや、今日はこれで終わりやで?」

散髪、顔剃り、洗髪、ドライヤー、全てが終わった後の頭を撫でられながら、そんなことを告げられた。

(・・・来る前とどこが違うんだ?)

(サイドは少し短くなってるけど・・・)

 

そんな言葉を押し殺しつつ、お会計に向かった。

「ほな今日は、6800円な」

 

今まで通っていた2500円の散髪屋の、3倍近い散髪料であった。

渡辺謙になれるなら安いものだが、果たして私は本当に半年後、渡辺謙になれているのだろうか。

そんな一抹の不安を抱えつつ、散髪屋を後にした。

半年後にまた登場することを、ここに予告したい

(未完)

 

アイキャッチ画像引用:自衛隊静岡地方協力本部

https://www.mod.go.jp/pco/sizuoka/office/pdf/shziuoka/13.pdf

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