脱水機としての私のポテンシャル

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筋トレが大嫌いなわたしだが、この一週間は半強制的に筋トレをする羽目にあった。しかも超部分的なトレーニングのため、疲労の溜まり具合が半端ない。

こんなことをするためにニューヨークを訪れたわけではないが、やらないわけにもいかず、毎日せっせと筋肉を鍛えたのである。

 

その結果、今日めでたく筋トレの効果を実感することができたのだ。いや、そんな効果を期待したわけではないが、顕著な変化がみられる理由は間違いなく、トレーニングを継続した結果だろう。

 

明らかに筋肉が肥大した箇所とは、わたしの前腕である。

 

どのようなトレーニングを積めば、一週間足らずで前腕がパンパンに膨らむのか、確認がてら振り返ってみよう。

 

 

今回のニューヨーク滞在で、わたしは荷物を最小限に抑えた。

オシャレをして出かける場面もないので、ジーパン2本とフーディーやロンTを数枚持参しただけ。そのため、仮にフォーマルウェアが必要になった場合は、近所のH&Mで調達しなければならなかった。

 

衣服のストックが少ないわたしにとって、必要な行為は「洗濯」ということになる。しかし街中のランドリーでは、洗濯で6ドル乾燥が一単位25セントほどなので、一回の洗濯で8~10ドルの出費となる。

さすがにこれは痛い…ということで、やむなく自ら手洗いすることにしたのだ。

 

靴下やパンツを洗面台でジャブジャブ洗い、ギュッと絞ってハンガーにぶら下げておけば、極度乾燥のホテルでは半日もあればカラカラに乾く。

そこでわたしは、日本から持参した旅行用の洗濯洗剤を使い、毎日ジャブジャブ洗濯しては部屋干しをする、というルーティンをこなすこととなった。

 

しかし今回、特別な洗濯物があった。それは柔術衣である。

ほぼ柔道着と同じ形状の道衣は、しっかりしたつくりで重量もある。そのため、ホテルの洗面台ではなく、バスタブに湯を張り洗剤を流し込んで洗わなければならない。

かつ、手で揉み洗いをするのは腕への負担が大きいため、足で踏んだりかき回したりして洗うこととなる。そう、まさに人間洗濯機だ。

 

景気づけにYouTubeを流しながら、パンツ一丁でギュウギュウ道衣を踏み洗いする姿は、江戸時代以前の古き良き日本を彷彿とさせるのではなかろうか。

ただ単に「踏むだけ」というのも芸がないので、衣服をつま先に引っ掛けて左右に揺さぶってみたり、自分自身がバスタブをグルグル回ることで回転式洗濯機となってみたりと、いつしか気持ちは洗濯機となっていた。

 

ある程度洗ったところで新たな湯をため直し、再び洗濯物を踏んだりかき回したりしながら、いわゆる「すすぎ」を行った。

こうして、いよいよ仕上げとなる「脱水」のフェーズを迎えたのである。

 

今回の洗濯における最重要課題は、脱水以外にありえない。

なんせ、分厚い生地でできた帯や道衣を、翌日の朝までに乾かさなければならないわけで、室内の乾燥状態を最大限に生かしたとしても、その前段階である脱水次第ではすべてが無駄になるからだ。

 

たとえば、タオルのように絞りやすい大きさ・厚みであればまだいい。だが道衣というのは、絞りやすい大きさでも厚みでもなければ、襟の部分や背中の部分などどうやって絞ればいいのか分からないくらいに、脱水に関しては最悪の形をしている。

それでも小刻みにギュッギュッと握りながら、水分を絞り出す作業を繰り返すわたし。

 

ある程度の脱水が終わったら、今度は床にバスタオルを敷き、その上に水気を含んだ重たい道衣を寝かせる。そしてさらにバスタオルをかぶせたら、その上からグイグイ踏みつけて、バスタオルへ水分を移動させる。

この作業によりかなりの水分が吸収されるため、あとは室内のエアコンを最高温にして半日も放置すれば、どれほど分厚い素材でもカラカラに乾いてしまうのである。

 

これが我が家ならばそうもいかない。コンクリートとガラスでできた低温多湿の部屋では、どんなに頑張っても生乾きにしかならないわけで、ホテルにおける乾燥状態というのは、洗濯物にとってはパラダイスといえる。

衣服を乾かすためならば、人間の喉が痛くなろうが鼻が詰まろうが、そんなことはどうでもいい。とにかく、キッチリ乾燥させることが最優先だからだ。

 

そんなこんなで、分厚い生地を毎日絞り続けた結果、わずか一週間ではあるが、わたしの前腕は見事に肥大したのである。

 

この事実に気付いたのは腕まくりをした時だった。アメリカ初日に着ていたトレーナーの袖が前腕でつっかえてしまい、手の甲がみるみるうっ血していくではないか。

少なくとも肘の辺りまで上げることができたはずだが、どうやっても前腕を通過することができない。そこで仕方なく、トレーナーを脱いで半袖に着替えた。

 

「わぁ!丸くて硬い!」

 

わたしの前腕を触りながら、女子たちの黄色い声が上がる。これもすべて、力強く道衣を絞り続けた結果である。

 

 

分厚い衣服を手の力で脱水すると、もれなく握力と前腕が鍛えられるということを、アメリカにて身をもって知らされたのであった。

 

Illustrated by 希鳳

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