史上初、代打トスンパ2夜連続の登場である。
ずいぶん昔の話だが社会人1年生のとき、彼女の誕生日ディナーで奮発し、リーガロイヤルホテルでフレンチのフルコースを頼んだ時のことだ。
ソムリエが席まで来て、ワインはいかがなさいますか?と聞く。
よせばいいのに私は、名前も読めないメニュー表の真ん中あたり、つまり一番高いものと安いものの間を指差して、
「今日はこれでいいです」
と伝える。
いやお前、今日が初めての来店だろうと絶対に相手はわかっているのだが、無知ほど強いものはない。
ソムリエさんは接客のプロなので、決して嗤(わら)うこと無くかしこまりましたというと、さっそく1本のワインを持ってきてくれた。
しかしこれが、地獄の始まりだった。
「テイスティングをお願いします」
そういうとソムリエさんは、なにやら見慣れないシルバーの容器を私に渡し、そこに少量のワインを注いだ。
テイスティングだと・・・?
つまり、テレビで見かけるソムリエさんがよく言うように、このワインの味をカッコよく表現すればいいのだな。
そう思った私はまずその小さな容器を揺らし、クンクンと匂いを嗅ぐと、
「なるほど、フレッシュな葡萄の香りがしますね」
と答える。
その時点で、ソムリエさんの作り笑顔が若干、本気笑いになっていたように思う。
しかしその理由もわからない私はゴクッと一息で飲み干すと、さらに続けた。
「口に含んだ印象は、早春のレンゲソウのような爽やかさです。しかし後味に独特のコクがあり、蜂蜜を思わせますね。」
「・・・」
「軽やかなのに喉越しもよく、さすがリーガロイヤルさん。これは何年ものでしょうか?」
「あの、品質になにかお気づきの点は・・・」
言うまでもないが、テイスティングとはワインが傷んでいないか、オーダーしたワインに間違いがないかを確認する儀式である。
ただ一言、「美味しいですね」や、「これでお願いします」と答えるべきものだ。
そんなことを知るよしも無かった私は、ソムリエ気取りで思いつく限りのことを口にして、周囲のテーブルを含めレストラン内を微妙な空気にしてしまった。
ただなんとなく、「・・・多分俺、なにかやらかした」ということだけはわかった。
それほどまでに、周囲を微妙な空気にしたということだ。
なにしろ、いい年のオッサンになった今も、記憶から消えないのだから。
その後、バーラウンジに移動し彼女にはマルゲリータを、私はマティーニをオーダーする。
当然、レディーファーストで彼女のマルゲリータが先に来たわけだが、そこで私は「カクテル入門100」で読んだばかりの付け焼き刃の知識を披露した。
「このカクテル、マルゲリータっていうんだけど、その由来はね・・・(以下略)」
しかしそこで異変が起きる。
ドヤ顔で、覚えたばかりの知識を披露する私の目の前にマティーニが注がれると、バーテンダーがこう聞いてきた。
「ピールはどうしますか?」
・・・ピール?なんだそれは??
もしかして、ビールの聞き間違えか?
しかし俺が読んだ「カクテル入門100」では、マティーニのレシピにビールなど入ってないぞ?
他に、それっぽい名前のリキュールなど無かったはずだ。。
しかし、「ピールとはなんですか?」などと、彼女の前で聞くことなどできない。
俺は大人のオトコとして、なんでも知っているパーフェクト超人でなければならないのだ。
そう思い、私はこう答えた。
「半分だけお願いします」
※ピールとは、レモンなど柑橘系の表皮のカケラをキュッと絞り、香り付けをする仕上げのことです
バーテンダーさんは当然のようにレモンピールをさっと振りかけると、嗤うことなくバックヤードに入っていった。
ここでも「・・・多分俺、なにかやらかした」ということだけはわかった。
それほどまでに、バーテンダーさんや周囲の空気が微妙になったということだ。
肝心の彼女がその時、どう思っていたのかは今となっては全くわからない。
なんせこれが、最後のデートになったのだから。
いい年のオッサンになった今、思うことがある。
若者よ、知らないことは
「わかりません!」
「それなんですか?教えてください!」
と素直にいえることほど、カッコイイことはないんだ!(泣)
少なくとも、わからないことを知ったかぶりすることほど、世の中で惨めなことはないのである。
ぜひ、いい年をしたオッサンの魂の叫びとして、参考にしてほしい(血涙)
アイキャッチ画像引用:特許庁「~コピー商品を買わない 売らない 買わせない!~」
https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/mohohin/campaign/2020/index.html
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