地獄のインフル、死の淵から私を救った神アイテム(新聞紙)

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先日、自宅のポストに新聞が投函されていた。

もちろん契約などしていないため「お試し」で配られたもの。

 

 

かつて新聞社で働いていたとき。

出来たてホヤホヤの新聞から放たれる独特なインクの香りを嗅ぐと、その日の退勤時刻が近いことを知った。

 

記事が紙面に載るまでの工程はデジタル化されている。

 

現場の記者がデスク(上司)へ送信し、デスクから整理記者へ送信され、整理記者がモニター上で紙面レイアウトを完成させると、輪転機(印刷機)へと送信される。

 

つまり輪転機から新聞が出てくるまで、すべてデジタル操作で完結する。

 

あの頃私は、なぜわざわざ紙に印刷するんだろうと疑問を抱いていた。

 

「それが新聞だから」

 

と言われればそれまでだが、なんで最後の最後に紙へ印刷するのか腑に落ちなかった。

そのままデータを配ればいいんじゃないの?と。

 

しかし、

そんな愚問を吹き飛ばす新聞紙の有効利用が、私の命を救ったことを思い出した。

 

 

2年前の大みそか、私は41度の高熱に見舞われた。

平熱が低い私にとって、37度程度の微熱でも身体の自由を奪われるというのに、41度という温度はウイルス以前に脳細胞が死滅してしまう。

 

そして高熱うんぬんより、全身を襲う激しい痛みが尋常じゃない。

 

筋肉痛と関節痛が次々と湧き起こる。

ベッドでじっと横たわっていても、身体の痛みで眠ることすらできない。

 

いま私の体内では、免疫細胞とインフルエンザウイルスとの壮絶な戦いが繰り広げられている。

その死闘の激しさこそが、この関節痛に現れている。

 

がんばれ、私の免疫力ーー

 

朦朧とする意識の中、私は私を応援した。

 

トイレまで歩けないほどに衰弱した私が、病院へなど行けるはずもなかった。

だれか病院へ運んでくれる救世主が見つかるまで、なんとか耐え忍ばなければならない。

 

そんな瀕死状態の私は、悪寒が止まらないほどの大量の汗に苦しめられていた。

 

インフルエンザウイルスは40度で死滅すると言われている。

そのため、人間の体は体温を上げて免疫を活性化させることで、インフルエンザウイルスへの攻撃力を強める。

そして解熱とともに発汗する。

 

ここで発生する大量の汗が、私の体表面に貼りついて熱を奪い寒気を誘うのだ。

高熱で体温は高いが、寒さでブルブル震えている、そんな相反する状態に陥る。

 

発汗しながら、震えながら、布団にくるまり命乞いーー

 

そんなことを繰り返すうちに体力は奪われ、まともな判断能力すらも失いかけていた。

 

うなされながら私は考えた。

 

どうしたらこの汗を乾かせるんだろう。

どうしたら着替えずに汗だけ取り除くことができるんだろう。

こんな汗まみれの状態が続けば、いずれ不潔なホームレスに・・・

 

ーーホームレス

 

これだ!

 

私はひらめいた。

ホームレスたちがよく、寒さをしのぐために体中に新聞紙を巻き付けている、アレだ。

 

新聞紙は表面加工をしていないため吸水性に優れている。

そして紙質は柔らかく面積も広い。

さらに手で破って適当な大きさにできる。

 

決死の覚悟で戦いに挑む兵士となった私は、ベッドを転がり床へ崩れ落ちるように着地した。

 

そして、実家から届いた段ボール箱の中へと手を伸ばす。

 

その中にある新聞紙を鷲づかみすると、震える手で破り、首に巻きつけた。

 

続いてお腹や脇、腕、足に新聞紙を巻いたり挟んだりして、なんとか全身を新聞紙で包み上げた。

 

ーーあたたかい、なんて温かいんだ

 

涙が出そうになった。

こんなにも温かい状態がつくれるなんて。

 

それまで着ていたスウェットと下着は汗でびしょびしょ。

絞りきれなかった雑巾のように、ずっしりと重く冷たい。

 

しかし体表面を覆っている新聞紙は、吸汗すると速攻で乾燥するかのように、汗による冷たさを感じさせない。

 

もうこのまま一生過ごせる。

 

そのくらい、新聞紙が私に快適さを与えてくれた。

 

 

翌日、友人に連れられて元旦の救急病院を訪れた。

 

私が廊下を歩くと、私から新聞紙の破片がポロポロこぼれ落ちる。

まるで「姥捨て山」のおばあさんみたいだ、と病人ながら笑ってしまう。

 

後ろを振り向くと、入り口から続く紙屑の目印。

病院関係者にしてみたら、誰だゴミをまき散らしたのは、と怒るかもしれないな。

 

そんなことを考えながら診察室へ入った。

 

熱を測った体温計を上着から取り出すとき、胸に巻いていた大きな新聞紙まで引っぱりだしてしまった。

 

手品じゃあるまいし、なぜ体温計が新聞紙に早変わり??

 

・・看護師はギョッとしていたが、体温41度の私は弁解することもオチを言うこともできなかった。

 

鼻の粘膜による検査の結果、案の定、インフルエンザ。

タミフルを渡され、帰宅した。

 

 

高熱による発汗からの体温低下事件は、結果的に新聞紙に命を救われたといっても過言ではないだろう。

 

どんな布より新聞紙のほうが吸水性といい速乾性といいい優れている。

なにより、汗が引いたら丸めて捨てるだけと使い勝手がいい。

 

新聞紙は薄っぺらいわりにしっかりしており、そう簡単には破れない。

寝返りをうっても、破れず崩れずキチンと巻きついている

そして長時間装着していると身体の形にフィットして、より快適な状態となる。

 

ーー新聞を新聞紙で読む時代は終わった

 

しかし新聞紙という文明品は、後世に残すべき価値があることは間違いない。

 

インフルエンザにかかったら、ぜひ、新聞紙を装着してみてほしい。

その快適さに驚き、新聞紙というものを見直すことになるだろう。

 

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