全日本柔術選手権で犯した、犯してはならないミス

Pocket

 

体重別の試合において、いかにギリギリで体重をセットできるかはテクニックである。

落としすぎてもダメ、かといってオーバーしていたら論外。

 

そのギリギリ目指して体重を作ることこそ、減量職人の腕の見せ所だ。

 

ところが私、今回は減量に失敗した。

 

正確にいうと、私が得意とするギリギリのウエイトを作ることに失敗した。

結果的に1キロアンダーとなり、目標より軽すぎる自分を作り上げてしまったのだ。

 

私の体は不思議なことに、試合が近づくと食欲が落ちていく。

まるで名馬がそうであるかのように、自らのベストの体重へと勝手に調整していくようだ。

 

久々の試合、この便利な機能を忘れていた私は、強制的にジャストの体重を作り上げていた。

それが前日、みるみる体重が減り、結果的に1キロも減ってしまった。

 

ミスったーー

 

試合では無差別級にもエントリーしており、かなり大きな対戦相手が待っている。

この1キロすらもったいない。

 

しかし当日になってジタバタしても仕方がない。

やけに軽く感じる体で、足取りは重く試合会場へ向かった。

 

 

会場に着くとまずは進行状況を確認する。

自分の試合が行われるマットが、時間通りに進んでいるのかどうかをチェックする。

そこからおよその試合時間を計算し、それに向けて準備を整えるのだ。

 

約一時間の遅れ。

 

まぁ想定内、問題ない。

そしてなんとなく対戦表を眺めていると、目を疑う数字が視界に入った。

 

〜61.2キロ

 

私の階級であるフェザー級は、道着や帯をつけた状態で上限が58.5キロのはず。

 

道着や帯で2.5キロをみている私は、自らの体重を56キロに設定している。

それが今回54キロ台まで落ちてしまったため、このミスを悔やんでいたところだ。

 

もう一度、その数字を確認してみる。

何度見直しても61.2キロと書いてある。

 

 

4キロも軽く仕上がったということかーー

 

 

実はこれには理由がある。

普段出場している大会と今回の大会は主催者が異なる。

そのため、ルールやレギュレーションが若干違うのだ。

 

そのことはすでに知っていた。

とくにルールの違いは試合を左右するので、事前に隈なくチェック済み。

どんな状況でも堂々と試合ができる準備はできていた。

 

・・はずだった。

 

しかし、まさかのウエイトが違うというところまでチェックをしていなかったのだ。

 

私より軽い階級は普段と同じ。

しかし私の階級から上が、一階級ずつ下にズレていたのだ。

 

つまり、普段なら一階級上のライト級が、今回は私の階級であるフェザー級となる。

 

ただでさえ1キロアンダーの詰めの甘さを悔やんでいたところ、フタを開ければ4キロアンダーではないか!

 

こんなミスはミスとは言わない、もはや事件だ。

 

食料品をさほど持参していない私は、無差別級の対戦相手からバナナをチラつかせられるも拒否。

そして試合直前の計量、56.8キロというなんとも心細い体重でクリア。

 

事前チェックの重要さを、体で思い知らされる記念すべき大会となった。

 

 

そういえば珍しい光景を見た。

 

柔術の試合、レフリーは黒のスーツ姿でジャッジする。

そしてその試合の選手は、黒道着と白道着で戦っていた。

 

途中、白道着は黒道着に絞め落とされた。

そして蘇生した直後のこと。

 

目を覚ました白道着、なんと目の前にいたレフリーにタックルを仕掛けたのだ。

 

レフリーは有名な黒帯の先生。

落ち着いてテイクダウンされながらも、シンガード(両足のスネを使ってガード)を駆使しつつ、白道着にストップを命じる。

 

その間もレフリーは両手を上げ、決して手を使わないようにしている。

このあたり、さすが黒帯。

 

白道着は押し込んでいる相手がレフリーだとは気づかない。

たしかに足元だけ見れば黒いパンツを履いているわけで、対戦相手と見間違う可能性はある。

 

対戦相手の黒道着は心配そうに2人を見守る。

 

そしてしばらくすると、白道着は我に帰った。

 

ーーどうやら、絞め落とされた記憶がなかったようだ

 

 

試合後そのレフリーに、

 

「ナイスシンガードでしたね」

 

とちゃかすと、

 

「膝の手術したばかりだから焦ったよ!」

 

と思いもよらぬ答えが返ってきた。

いやはや、大事に至らなくてよかった。

 

 

全日本選手権のような大きな大会では、想定外の事件が起きる場合がある。

 

事前のチェック、とくに集合時間や試合数そしてウエイトといった、数字に関するチェックは怠らないようにしよう、と強く心に刻んだ。

 

 

Pocket