暇を持て余すわたしは、ネット広告で頻繁に登場する「リカバリーサンダル」に注目していた。
じつは昨年、ためしに一つ買ってみたところ、予想以上の優れモノだったのだ。大袈裟な言い方ではなく、何時間立ち続けても歩き続けても、腰も膝も足の裏もどこも痛くならないのだ。
医療用ではないが、実際にリハビリや医療従事者も使用している代物で、なるほど評判以上の効果を実感できたのである。
そのかわり値段は安くない。さすがに、ビーチサンダルで8千円は高すぎるだろう。しかし履けばわかる。もうこればかりは、履けばわかる!としか説明のしようがないのだ。
ちょうど骨盤がズレたかなにかで、歩行が怪しい状態だったわたしは、さっそくリカバリーサンダルを購入した。
友人が経営する店の商品なので、付き合いも兼ねての買い物だった。それゆえ、仮になんの効果を感じなかったとしても、「なんだこれ!詐欺じゃないか!」ということにはならない。なによりモスグリーンのビーチサンダルは、それだけでオシャレかつカッコいいから、リカバリー機能度外視で気に入っていた。
ビーチサンダルによっては、鼻緒の部分が硬くて指の間が摩擦で擦り剝けてしまうことがある。しかしこのサンダルは医療用シリコン素材のため、なんとも不思議なタッチで履き心地がいい。
とはいえ、柔らかければいいというものでもないし、肌触りと腰痛は関係ない。よって、ここはシビアに判断しなければならない。
――そして5時間後。ほとんど立ちっぱなしだったわたしの腰や足の裏は、まったくといっていいほど疲労も痛みも感じていなかった。
(やべぇ、これは本物だ・・・)
それからというもの、来る日も来る日もリカバリーサンダルを履き続けたのである。
*
(なになに、スモーキーピンク?悪くないねぇ)
ネット広告は、頼んでもいないのにリカバリーサンダルを推してくる。そんなこと呟いたっけ?と考えるも、たぶん「ノー」だ。そもそも、まだビーチサンダルの季節ではないので、探すにしても気が早いだろう。
それでもネットは、わたしが右膝の半月板と内側側副靭帯を損傷した途端に、突如、とっかえひっかえリカバリーサンダルを見せてくるのだから恐ろしい。
そこでわたしは、とりあえず室内用として一つ、新たなリカバリーサンダルを購入してみた。やはり金額はそこそこ高いが、前回の圧倒的な実体験のおかげで、値段よりも効果を手に入れたいと強く願うわたしは、新たなサンダルの到着を心待ちにした。
そしていよいよ、二足目となるリカバリーサンダルにつま先を通す時がきた。・・うん、わるくない!前回の商品よりも厚底で、フワフワした歩き心地がする。
こればかりは好みによるが、個人的には厚底が好きではないため、見た目でいうならば前回のほうが気に入っている。
だがこれはこれで、履き慣れるといい感じがする。ソールのアーチがなんともいえずフィットするあたり、今まで室内履きとして使ってたクロックスが、用なしになってしまうほどの魅力である。
膝を傷めて4週間が経過した。風呂にも入らずじっとしていたせいもあり、一般人でいうところの8週間にあたる回復をみせたわたしは、どこかウキウキしていた。
フットネイルも春らしく染めてもらったし、かかとの角質もツルツルに削り落としてもらった。もちろん、風呂にも入ったわたしは清潔そのものであり、女子力もかなり高めである。
(よし、足のお手入れをしておこう)
そこで、もらい物のハンドクリームをかかとからつま先までまんべんなく塗りたくった。外国製のため、なんともオシャレでいい匂いがする。足からこんな素敵な香りがするとは、まったく、これこそがシロガネーゼってやつだ。
そんな独り言をつぶやきながら、おニューのリカバリーサンダルを履くと、飲み物を取りに冷蔵庫へと立ち上がった。
・・・その瞬間、
「いてぇぇぇぇぇ!!!!!」
なんと、クリームでベタベタになった足の裏が、滑らかなアーチを描くソールで滑り、それが鼻緒で引っかかって止まったため、バランスをとろうとした体が、いや全体重が、わたしの右膝の内側にのしかかったのだ!!!
――こんなことなら転べばよかった。逆らうことなくツルっと倒れたほうが、まだマシだった。よりによって、傷めているほうの靭帯に追い打ちをかけるような動きを、する必要もなければ耐えるべきでもなかった。
っていうか、リカバリーサンダルでリカバリーできてないじゃないか。むしろ悪化させてどうするんだよ・・・。
*
本日の教訓。足の裏をヌルヌルにするのは極めて危険なので、おすすめしない。
コメントを残す