クロバネキノコ映え

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4月に入り、外はめっきり春めいてきた。とはいえ朝晩の寒さは健在なため、服装が難しい季節でもある。しかしながら、春だというのに冬物を着ることは女のプライドが許さない。そこでほとんどの人間、いや、ほどんどの女性が、鳥肌を立てながらも春服に袖を通しているのである。

都内では桜も散り始めている。しかし面白いことに、23区内でも北と南では桜の様子が違うのだ。先日、目黒川の桜は半分くらい散っており、強風が吹くと辺り一面が桜吹雪でピンク色に染まった。しかし同日、上野公園の桜はまさに見頃で、花びらはしっかりとくっ付いており生命力に溢れていた。

 

ところで、自然界の生き物に備わる「季節察知能力」には恐れ入る。誰が教えるわけでもなく、季節が春へと動き始めると、それに合わせて押し出されるかのように木々の蕾が膨らみ、美しい花を咲かせるわけで。

かわいそうなのは、ある一日だけやたらと暖かくなったせいで、思わず開花してしまった若輩者だ。翌日、冷たい雨が降ろうものならやるせない気持ちでいっぱいになる。

(し、しまった!)

内心こう思っているだろうが、時すでに遅し。開いてしまった蕾は逆再生できない。寒の戻りで真冬のような寒さの中、しぶしぶ美しい花びらを全開させるしかないのだ。

 

自然界といえば虫の存在を忘れてはいけない。あいつらも何気に冬の間は姿を見かけなかったが、ここ最近はチラホラ目視するようになった。だが屋外で虫を発見する分にはなんの影響もないが、屋内で視界に入った時は穏やかではいられない。

建物内において、虫というものは存在しない前提でマンションは建てられている。彼氏や旦那が室内にいても驚かないのに、ゴキブリがいたら発狂するのはこのためだ。

 

そして今日、年度初めの書類作成に追われていたところ、ついに小さな虫がフラフラと飛翔する姿を発見した。フゥーッ!と思いっきりツバ混じりの息を吹き付ける。すると一瞬、風圧に煽られて失速するも、その後見事に立て直してどこかへ消えていった。

(クソ、殺せばよかった)

吹き飛ばした直後に後悔したが、まぁ慌てることはない。どうせまた私の周辺に現れるのだから。

 

虫もやはり温かいところが好きなのだろう。デスク付近はライトやパソコン、周辺機器など熱を発するものが多いため、呼びもしないのに勝手に集まってくる。さらには人間自体、あるいは吐息なども温かい空気のため、人間のそばに吸い寄せられる傾向にある。

別にほっといてもいいのだが、先に述べたように「室内に虫は想定外」のため、やはり手を打たなければならない。さっきのアイツはノロノロ飛んでいたから指でつまめる。次に見かけたらさっさと駆除してやろう――。

 

ちなみに「さっきのアイツ」について、殺虫剤といえばフマキラーのフマキラー株式会社によると、

(前略)キノコバエ(正式名称はクロバネキノコバエ)という体長約2mmのコバエです。おもに腐敗した植物や朽ち木、樹皮を摂食することから、観葉植物やプランターのまわりに生息します。

ということらしい。キノコバエは人間を刺したり噛んだりすることはないが、思い切り息を吸い込んだ時に鼻の穴に入ることもあるので、共存は難しい。

 

ここで豆知識を一つ紹介しよう。フマキラーという社名の由来をご存知だろうか。じつは殺虫剤の会社ならではの由来があるのだ。なんと、ハエ(Fly=フライ)と蚊(Mosquito=マスキート)を殺す者(Killer=キラー)ということで、フマキラーとなったのだそう。

もしこれを日本語読みした結果、マスキート(英語の発音風)をモスキート(日本語のカタカナ表記)としていてたら、フモキラーという社名になっていたわけだ。

だが「フモキラー」じゃなんとなくカッコ悪いから、マスキートと発音してくれてありがとうと言いたい。

 

さて、あれから2時間が経過するが、キノコバエが現れない。どこかに隠れているのか、はたまた居心地の良さに巣を構えているのか、いずれにせよ緊急事態に違いない。

部屋中をウロウロしながらさっきのアイツを探し回る。キッチンや風呂場、洗濯機なども覗いたが姿は確認できない。もしも数が増えたりしたら厄介なことになる、息の根を止めねば――。

 

私はヒントを求めて、再びフマキラーのサイトを読み返す。すると意外な事実が書かれていた。

成虫になってからの寿命は4~10日前後、なかには数時間で死んでしまうものもあるようです。キノコバエは湿度に大きく左右される生き物ですので、多湿状態ではそこそこ長生きしますが、そうでない場合はすぐに死んでしまいます。

なんと、乾燥していたら死ぬらしい。我が家は除湿器2台が24時間フル稼働で湿気を吸い込んでくれている。ライトの明るさと室内の温かさにおびき寄せられたアイツは、この乾燥地獄に耐えきれず絶命したのだろう。

 

あえて亡骸を探すことはしないが、間違いなくこの世を去ったと信じて、私は仕事に戻ったのであった。

 

サムネイル by 鳳希(おおとりのぞみ)

 

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