いま、朝の4時半だ。
ポールは友達がいないのだと思う。
でなければ、あんなに何度も自分のカラオケを私に送りつけてくるはずが、ない。
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ポールは相変わらず歌が下手だった。
しかし、根がまじめなのだと思う。
私が過去に伝えたアドバイスを、1割くらい守ろうとしていた。
頑固でカタブツ、「オレ様」の典型と言えるポール。
人の言うことなんて1ミリも聞きそうにないが、1割も実行しようと努力してくれたのだから驚きというべきか。
前回はあまりの衝撃に絶句したが、今回は2度目なので、落ち着いて「ひどい歌」を分析しようと心がけた。
(今回もお題は「ルパン三世愛のテーマ」)
(前奏)
(・・・おや)
そう、まず出だしの音。
「あーいをーむねにーだーいてー」と始まるのだが、この「あ」の音が前回と比べて正確な音程にハマっている。
これは期待できる・・・。
(・・・チッ、いらんことしやがって)
「ふるえてーねむれー」と続くのだが、この「れーーーー」と伸ばすところ、ドヘタクソのくせにいっちょまえに「ビブラートもどき」をかけてきやがった。
しかもそれはビブラートというより、ガクガク震えるロングトーン。
聞きづらいったらありゃしない(しかし、ポールがカラオケで高得点を出せる秘訣がここにあったのだ。詳しくは後ほど)。
(途中、省略)
終わった。
正直な感想として「前より良くなってる」といったところ。
今回、私は新たな試みとして、ポールの声に「正しい音程」でメロディーをかぶせて録音してみた。
そしてその動画をポールへ送った。
「私の声とポールの声、ちょっとだけズレてるのわかるかな?」
「わからない(`・ω・´)」
・・・だめか。
そこで一つ、私は”上手い例え”を思いついた。
「あ、いい例えを思いついた。
『真っすぐ歩け』って言ってるのに、ポールはスキップしたりサイドステップ踏んだりしてる感じなんだよ」
するとポールは、いっちょ前に言い訳をかました。
「そうだよ、真っすぐ歩いても外れるからジグザグに歩いて、部分的に合わせに行ってる」
キーーーーーーーーーー!!!
この偏屈野郎め・・・
(これは、私にとってのメンタルトレーニングに違いない)
私は怒りを堪え、丁寧に説明をした。
…私は、ノンビブラートでしゃくりも入れずに、ストレートに声を出してる。
裸で人前に出るみたいに恥ずかしい感覚はあるけど、自分の声をごまかさず、正しい音に当てはめて歌えてるのかを確認するためだよ。
だからポールも、ビブラートやしゃくり(勝手にそうなってるだけだろうけど)をやめて、裸の声で勝負してみようよ。
耳でしっかり聞きながら歌ってみようよ。
そう優しく提案した。
「それは、音程バーを見るなってこと?」
「・・キサマは目で声が出せるんか?ポール」
「よし、じゃあ音程バーを見ずに歌ってくるぞ!」
(10分後)
「(ノンビブラート、しゃくりなしの結果)音程正確率が60%だったぞ。
99%から60%まで下がったわ」
これで私はピンときた。
採点機能が「機能しなかった理由」が明らかになった。
この歌がへたくそなポールが、カラオケで96点などという高得点を出せるはずがない。
しかも、本人曰く、
「音程正確率99%だった」
んなわけあるかい!
とうとう嘘つくようになったのか。
と思ったが、一つ思い当たるふしがあった。
それがあの「ビブラートもどき」だ。
あれだけ大げさでひどいビブラートをかければ、音程など分析することはできまい(ましてや機械の設定上、不可能)。
となると、あのガクガク震えるビブラートが原因で、音程の正確率が上がっている(正確には、判定できないのでスルーした結果、減点されなかった)と考えるのが自然だ。
まぁ、音程正確率が60%なんてのもありえないパーセンテージで、私から言わせれば17%程度といったところだが。
とにかく、カラオケなんてものは信用できない。
だいたい、歌手ご本人がカラオケで歌たって100点なんて出やしないんだから。
それを、ドヘタクソのポールが99点だなんて、そんなポンコツ採点機能あるかいな。
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そんな愛くるしい天然ポールの、本日最後の名言はコチラ。
「まあ、点数ゲームを騙すという目的は達成できてるということだw」
・・そうだよ、ゲーマーとしてのポールは、採点機能の攻略に成功したんだよ。
~つづく(と思われる)~
ポールさん相変わらず前向き(笑)
おそらく「音痴」とストレートに言っても前向きに変換できる力をお持ちとみた!
うん、何だろうね。
あそこまでポジティブに脳内変換できるのって、ある種の才能だよね。
今となっては、そをれを大事にしてほしい…と願ってる。