いよいよ10月に入ったというのに、未だに足元がビーチサンダルのわたしは、いわゆる「季節外れの装いに対する無言の抗議」を受けた。
ビジネスマンや観光客で混雑した地下鉄車内は、ビーチサンダル装着者にとって緊張と恐怖の連続となる。とくに警戒すべきはビジネスマン・・いや、ビジネスパーソンだ。
なぜなら、彼ら彼女らは常に”足元を固めている”ため、その存在自体が脅威といえる。なんせ、立派な革靴で自らの足を守ると同時に、硬くてエッジの効いた「ソール」という攻撃力をも兼ね備えているわけで、まさに鉄壁の臨戦態勢なのだ。
・・要するになにが言いたいのかというと、革靴やハイヒールを履いたビジネスパーソンが増えたことにより、素足を露わにしているわたしが不意に攻撃をくらう確率が上がったのである。
夏の間、とくに女性はフラットなサンダルが多く、柔らかい素材でできているため踏まれても平気だった。ところが季節が秋を迎えた途端に、彼女らの攻撃力が格段に上がった——そう、鋭くて硬いヒールのついたパンプスを装着するようになったのだ。
それはまるで「昨日の友は今日の敵」とでも言おうか、ついこないだまで仲良くビーチサンダルだった女性陣が、一斉にパンプスへと衣替えをしたため、未だに夏真っ盛りのわたしだけが取り残されてしまったのだ。
あたかも、現代化についていけなかった原始人であるかのように——。
(イテッ!!!)
素足むき出しのわたしの親指と、サラリーマンが履いている革靴のかかと部分とが接触した。無論、あちらに悪意はなく乗降者の流れに沿ってバランスを崩しただけなのだが、よりによって「爪が剥がれて突き指をした親指」を狙い撃ちするとは、なかなかのやり手ではないか。
しばらくの間、涙目でジッと痛みをこらえていたわたしは、次なる攻撃の気配を察知した——急ブレーキだ!!
車内の乗客らは皆、スマホを片手に逆の手でバッグを持ったりつり革を握ったりしている。そして電車の揺れに合わせて、なんとなく重心移動させながら次の駅を待っているため、四方八方を取り囲まれたわたしの足・・もとい素足は、乗客らのバランスによって守られたり攻撃を受けたりするのだ。
しかも、こちらが自ら足先を守ろうとしても、複数人から一斉に攻撃を受けようものなら回避不可能となり、どうやってもダメージを喰らってしまう。おまけに周囲は全員、革靴およびパンプスを装備している——こんな状況で、ほぼ素足のわたしが勝てるはずがない。
それはまるで、鉄砲を構える敵陣に対して竹槍で応戦するかのような光景だった。
言うまでもなく、こちらに攻撃の意志など皆無ではあるが、少なくとも己の身を守ることくらいは自分でどうにかしたい。とはいえ、丸腰のわたしに何ができるというのか・・。
そして急ブレーキの直後、目の前に立っていた女性のパンプスのかかとが、見事にわたしの親指へと直撃した。それと同時に、右隣りのサラリーマンの革靴の側面が、わたしの小指へと突き刺さったのだ。
(ギィュェェエエエッ!!!!)
声にならない声で叫ぶわたし。いかんせん、彼ら彼女らにしてみれば大した接触だとは思っていないはず。事実、大した接触ではないわけで、ただ単に素足のわたしに対して強固なヒールと鋭利な靴底が勢いよくぶつかってきただけのこと。
(あぁ、これが季節の変化に対応できなかった輩の末路ってやつか・・)
小指の爪が剥がれたんじゃないか?と思うほどの激痛に耐えながら、時代に乗り遅れたわたしは世知辛い世の中について肌で感じるのであった。
(とはいえ、まだまだビーチサンダルで生きるぞ!)
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