週末ミッドナイト・ワクワク

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昨夜、ネーミングによって捉え方が180度変わるマジックについて言及したが、本日もこれまた驚きのネーミングセンスというか、行政にしては珍しく柔軟なイベントについて協議する機会を得た。

その名も「週末ミッドナイト接種/Friday night COVID-19 Vaccination Program」

・・・ミッドナイト・ワクチン。

さすが港区というか、港区だからこそ可能なプログラム。しかも会場が東京グランドホテルときた。うーん、悪くない。

 

ポスターを見ると、とある東京都の事業が思い浮かぶ。そう、TCKこと東京シティ競馬だ。今から35年前、公営競技初となるナイター競馬を開催したのが大井競馬場のトゥインクルレース。同年、日本国内では男女雇用機会均等法が施行されたり、東北自動車道が開通したりと、新時代の幕開けととともにナイター競馬がスタートした。

かつて(職業柄)しょっちゅう目にしたTCKのポスターと似た雰囲気の、爽やかな夜空と星が散りばめられたデザインに思わず笑みがこぼれる。さらにキャッチフレーズが秀逸。

「まだ間に合う 週末の夜はホテルでワクチン接種」

なんと淫靡で魅力的な響き!これならばワクチンでもペクチンでも、喜んでホイホイ通ってしまいそうだ。

 

このネーミングについて、逆に「頼まれても行きたくない表現」はどんな感じだろうと考えてみる。たとえば、

「週末夜間ワクチン計画」

というタイトルならば、事実を述べているにもかかわらず、ものすごくダークで陰謀論者を活気づかせることだろう。なんなら「週末」を「終末」に置き換えて、さらなるインパクトを狙うもよし。ある意味、このネーミングでも実施してもらいたかった。

 

どうやら「夜間」という表記が怪しさを醸し出す。たしかに時間帯は夜だが、夜間というと何となく良い印象は与えられない。同じ夜でも「ナイト」「ナイター」「宵」「小夜」などは、どことなく美しい夜が連想される。そこへきて今回の「ミッドナイト」はドンピシャでオシャレ。若者も違和感なく受け入れられるワードだ。

 

ちなみに競輪では、ミッドナイト競輪という21時以降に開催されるレースがある。ナイター競輪よりも響きがシャレており、同じ競輪のレースであるにもかかわらず、

「その辺にツバを吐き、鉛筆なめなめする小汚いオッサン」

のイメージが払拭されるから不思議だ。

 

話をミッドナイトワクチンへ戻そう。金曜日の夜という時間枠を設けた理由について、

「通常の接種では時間帯が合わない」

「翌日が平日だと副反応が心配」

といった声が、働き盛りの世代や学生から多く聞かれたため、仕事帰りに立ち寄ることができて、翌日以降に発熱しても仕事や学業への影響が少ない「金夜」が抜擢されたのだそう。

さらに当日枠も100人分用意されており、計画的な予約が困難な人でもワクチン接種ができる仕組みとなっている。

 

こんなにも至れり尽くせりな行政のイベントが、未だかつてあっただろうか。加えて迅速でニュートラル、まるで民間業者が手がけたかのようなアイデアが、まさかの「お役所仕事」だったとは。

その反面、ワクチン担当の職員は公務の時間が延びるわけで、とんだとばっちりかもしれないが…。何はともあれ、港区役所担当課の見事な仕事っぷりに拍手。

 

しかしこんな面白いやり方を思いつくのならば、その他の業務もアイデアを振り絞ればいいのに。とはいえ今回のワクチン接種は前代未聞の取り組みゆえ、逆に自由度が高かったのかもしれない。なにせ既存の事業は既定路線を踏襲しなければならず、違うことをやろうとすると必ず邪魔が入る。

「なんで新しいことをする必要があるんですか?」

「そうすることによってどれほどの効果があるのですか?」

こういう質問をするのならば、逆に同じことを問いたい。昨年度と同じやり方を繰り返すことで、どれほどの効果があるんですか?時代の流れや肌感覚的に正しい方向へ進むことを、拒むだけの価値が過去にはあるんですか?

 

国民や区民が興味を示すような取り組み、そして協力を仰げるような方法は必ずある。それらの方向へ国や行政が進まなければ、官民の温度差は広がるばかりだろう。

とりあえず私は、オシャレなバーへカクテルを飲みに行く感覚で、ミッドナイトワクチンとやらを覗いてみることにする。

 

 

サムネイル by 希鳳

 

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