託宣(たくせん)

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人生二度目のMRI検査を受けた。前回は頚椎だったが今回は脳だ。昨日発生した頭痛が、脳もしくは血管に異常があるのではないかと疑い、年末のこの時期に脳神経外科を受診することとなったのだ。

原因は人生初の筋トレ。正確には筋トレ前のウォームアップの時点で頭痛が発生した。今までの人生で、どんなスポーツをしても頭痛なんて起きたことはない。だが初挑戦の筋トレでまさかの頭痛を味わうことになるとは――。頭の左側がズキズキ痛む。しばらく休むと痛みは和らぐが、再びウォームアップを始めると痛みも戻る。とりあえず軽くスクワットをこなして本日は終わりにした。

 

夜中にふとスクワットのフォームが気になり、鏡の前で二、三回ためしたところ、またもや頭痛に襲われた。しかもジムでの頭痛よりはるかに痛いではないか。

(マズイ、くも膜下出血の予兆か!)

すぐさま身支度を整え、玄関のカギを開けてからベッドにもぐりこむ。そう、救急隊に救出されるための準備だ。パンツも新しいし足の毛も剃った、これで恥ずかしいことはない――。

 

 

目が覚めるとそこは病院、ではなく自宅のベッドの上。――あぁ、何事もなく朝を迎えたのか。ならばさっさと病院へ行かねば。

 

暮れも押し迫ったこの時期に、MRI検査装置のある病院で、営業しているところはいくつあるのだろうか。とりあえずネット検索をもとに片っ端から電話をかける。

「画像撮影は提携病院で行うので、データが届くのに一週間かかります」

「紹介状を書くので、別の病院で撮ってきてもらいます」

あぁやっぱり。そうなのだ、MRI検査装置は非常に高額であり、一台10億円以上する。2019年に日立製作所が発売したMRIシステムは、28億円(税別)から売り出されているとのこと。そんじょそこらのクリニックがホイホイ買える代物ではない。

 

時期も時期だし装置も装置だし、絶体絶命かと思われた矢先、この条件をクリアするクリニックを発見。わたしは電話を切ると着の身着のままタクシーに飛び乗り、そのクリニックへと向かった。

 

 

検査技師に案内されて検査台へと横たわるわたし。MRI検査は金属類のほか、ヒートテックやカラコン、湿布、入れ歯などもNG。前回は上下ともにヒートテックを着ていたため全裸となったが、今回は頭部撮影のためヒートテックを着たままでOKとのこと。おかげで何も脱がずに済んだ。

そして前回は「もののけ姫」とともにピットインしたが、今回は頭部が重要となるため、ヘッドフォンなしで送り込まれる。果たしてどれほどの騒音に耐えなければならないのだろうか――。

 

さっそく工事が始まった。ドンドンドン、ガンガンガン、ビーーーー、チュインチュインチュイン。どうしたらこんな大迷惑な工事ができるのか、説明してもらいたいほどの騒音に襲われる。最初は「耳から聞こえる」という程度だったが、そのうち「脳に突きささる」「脳にめり込む」といった感覚に変化していく。

(あぁ、うるさいし早く終わんないかな・・)

 

そしてある時、瞬間的にハッとなる異常音が始まった。全身鳥肌が立つほどの嫌悪感というか殺気を感じる。脳の内側から蝕(むしば)まれるような、なんとも不快で破壊的な音。もはやこれは音ではない、周波数だ。この波がわたしの波長とリンクし、殺人的に不穏な状態を生み出している。このままでは殺される――。

心拍数が200を超えた頃、わたしは手持ちのブザーを握りしめた。

「どうしました?」

検査技師の兄ちゃんが近づいてくる。いまの音がダメだと伝えると、では他の音(検査)からやってみましょうか、ということでとりあえずは難を逃れた。

 

それからいくつかの騒音を通過した後、とうとう、さっきの破壊的周波数の出番がやって来た。

「もしダメならすぐにブザー押してください。ダメな人はこれダメなんで」

ある程度の脳内画像は撮影できた様子。よって、この音がダメでも今ある画像で診断できる範囲の診察は可能。だがせっかく金を払ってMRIとMRA(血管撮影)を行うのだ。どうせならすべて完璧に撮影してもらいたい。

そこでわたしは考えた。前回の頸部撮影と異なるのは、もののけ姫が流れているかいないかの違い。ということは、脳内でもののけ姫を流せばいいんじゃないか――。

 

深く息を吸い込むと、わたしはアシタカになりきった。ん、違うな。シシ神か?いや、乙事主(おっことぬし)のほうが合ってるか?…まぁどれでもいい。わたしはオリジナル・もののけ姫のメインキャラクターとなり、アノ歌を鼻歌で歌いながら再びピットインした。

ブィィィィィン

破壊的周波数すらもBGMとして利用できるほど、わたしはリアルに「オリジナルもののけ姫」を創作し、その中で戦った。地球外生命体とわたしとの壮絶なバトルは一進一退を繰り返し、手に汗にぎるギリギリの攻防が続く。

しかし戦いの幕引きはあっけなく訪れた。

「はーい、終わりましたよ」

検査技師の兄ちゃんだ。わたしは静かに戦場から現実へと引き戻されると、そのまま診察室へ連れていかれた。

 

 

「診断結果の前に、どうやって最後まで検査を受けられたんですか?」

マウスをクリックしながらドクターが尋ねる。これは、途中でわたしがリタイアしかけたにもかかわらず、どのような方法で乗り切ったのかという質問だ。

「イメージを変えました」

もののけ姫としての戦いを終えたわたしは、どこかスッキリとした満足げな表情でそう答える。するとドクターは一呼吸置いてからこう言った。

「まさに格闘家の考えですね」

この言葉にわたしは驚いた。撮影中、なぜわたしが戦っていたことを知っているのだろうか。どこかに戦いの痕跡が見えたのだろうか――。

 

というわけで、脳も血管も異常なしで診察は終わった。とどのつまりは(筋トレのような)やり慣れないことを調子に乗ってやるな、という神のお告げなのだろう。

 

サムネイル by 希鳳

 

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