わたしがフィジカルモンスターと陰口を叩かれる要因に、筋トレを一切しないことと、プロテインなどの高たんぱく食品を摂取しないことが挙げられる。
いわれてみれば確かにわたしはゴツゴツしている。写真に写る自分が想像と異なるため、何度も撮り直すが変化はない。集合写真は端っこで写ると横に伸びるため、なるべく中央付近を陣取るという抜かりなさ。
それでも部分的に、たとえば腕や肩が妙に分厚く写ることもあり、どうも納得がいかない。
「お父さんやお母さんもそんな感じなの?」
これはよく聞かれるが、彼らは決してそんなことはない。痩せてはいないが、筋肉質とはほど遠い体格をしている。――ではなぜ?
わたしがなぜか筋肉質であることを、目の見えない父に相談したところ、
「そうか。…じつはおじいちゃんが、村一番の力持ちで有名だったらしいんだよ」
と、とんでもないカミングアウトをされた。さらに続けて、
「何人かかっても動かせない大きな岩があって、それをおじいちゃんは一人で持ち上げると背中に背負い、移動させたらしいんだ」
などと、まんが日本昔ばなしの世界を語ってくれた。つまり、隔世遺伝てやつか。
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数日前、友人から唐突にこう言われた。
「URABEは縄文時代に生まれたらよかったと思う」
どうも素直に喜べない自分がいる。なぜそう思うのか尋ねたところ、
「石器が似合う。あと道具とかあまりない時代で、より輝きそう」
という回答。たしかに複雑な道具より、単純なものの方が扱いやすいしわたし自身も安心する。さらに、
「狩猟でみんなは槍とか使ってるのに、わしづかみした石で参加してそう」
との見解を示される。なんだそりゃ、まるでわたしがバカじゃないか!
「あと、土偶のモデルになって、将来発見されたときに宇宙人説が唱えられそう」
ここまでくると、もはや壮大なスケールの夢物語だ。馬鹿にされているのか褒められているのか分からないが、自分がモデルである土偶が作られたら、それはそれで嬉しいだろう。土偶になれるほど地位が高いとか、特別な存在だったということだから。
このようにわたしが筋肉質なのは、隔世遺伝の影響とタイプ的には原人あたりのランクだからなのかもしれない。ニュータイプの人間よりは、どこか野生動物に近いというか。
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そんなわたしは、ある友人からプロテインを与えられた。粉もの好きなわたしは、プロテインだって大好き。だが自らシェイクして作ることができないため、いつも他人が飲んでいるプロテインドリンクをうらめしそうに眺めるだけだった。
プロテインをもらったからといって、急に作れるようにはならない。まずはそのまま、スプーンですくって食べてみる。白い粉が口内にまとわりつき、唾液と混じってニチャニチャする。
(ん、これはこれで悪くないぞ)
ミルキーを噛み続けた最後のような歯ごたえと味わい。うん、悪くないどころか美味い。
しかしこれだと食べられるプロテインの量に限りがある。だからみんな、こぞって水で溶かして飲んでいるのか――。ここへきて謎が解けた。
友人に相談したところ、
「そんなの簡単だよ。まずはペットボトルの水を買う。少し飲んだら、紙を丸めて筒状にした漏斗(ろうと)を差し込んで、その中へプロテインを入れる。あとはキャップしてシャカシャカ振ればできあがり。んで、飲み終わったら空のペットボトル捨てておしまい。ね、簡単でしょ?」
と、いとも簡単そうな作り方を教えてくれた。わたしがプロテインドリンクを作れない理由の一つは、容器を洗うのがめんどくさいからだ。プロテインの量をきちんと計るわけがないのは言うまでもないが、飲んだ後のシェイカーを洗う行為というのがとにかく面倒でしかたない。
だが友人のこの方法ならば、洗うことなく容器とおさらばできる。
さっそく帰宅途中のコンビニでいろはすを買い、半分ほど飲んだところで、自宅ポストに投函されていた4500万円のマンションのチラシを丸めたものを突っ込み、いよいよプロテインを注いでみた。
繰り返しになるが、わたしは面倒くさがりで有名。スプーンを使ってプロテインを入れるなどという無駄なことはしない。そもそも計量しないのだから、目検討で好きなだけ入れてやろうと決めていた。
その結果――。
ドサドサと振りかけたプロテインの重さで、4500万円のチラシがほどけ、テーブルからリビングから粉雪が舞い白く染まった。
*
もちろん粉はすべて回収し、ヨーグルトと混ぜたりカップヌードルに加えたり、色々な味わい方の研究に使った。
だがいまだに、これといったベストな食べ方には至らない。やはりミルキーの残骸のように、唾液と直接ミックスさせてニチャニチャやるのが、わたしらしいのかもしれない。
サムネイル by 鳳希(おおとりのぞみ)
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