わたしは今、洗面所でうずくまっている。体調不良で倒れているわけでも、タンスの角に小指をぶつけた痛みでへたり込んでいるわけでもない。
では、なぜこんなところでうずくまっているのかというと、あまりの寒さに耐えきれなくなったわたしは、暖を取るべく洗面所へ移動して、セラミックファンヒーターを懐に抱えながら命乞いをしているからである。
もちろん、リビングのエアコンは全開で温風を吐き出している。しかしながら、毎度の解説でうんざりかもしれないが、わが家のエアコンは天井付近しか暖めることができないため、どんなにフル稼働でも人間が座るであろう低層エリア(?)の空気は冷え冷えとしているのだ。
しかも、なぜか今日に限ってスタバのフラペチーノが飲みたくなったわたしは、愛飲の定番である抹茶クリームフラペチーノと、期間限定商品であるスヌーピーのキャラメルチョコレートオーツミルクフラペチーノの2種類を、ソファに寝そべりながらチュウチュウ吸っていた。
——この行為が、わたしの体をみるみる冷やし始めたのだ。
ちなみに、これが昨日ならばまったく問題はなかった。なんせ、最高気温は25度を越えており、完全に春を気取っていたのだから。おまけに、ここ数日の春日和に騙されたわたしは、冬物の上着をクリーニングに出してしまい、手元には薄手のジャケットしか残されていなかった。そんなわけで、もはや「春になってもらわなければ困る状況」に自ら追いやってしまったのだ
だが今日は違った。最高気温8度という、まさかの冬逆戻りの寒さに見舞われたわが家は、エアコンに加えてパーカーを重ね着しなければならないのどの低温となっていた。
それでも、"冬にアイス"という組み合わせが支持されるように、暑いからといってフラペチーノで喉を潤すような安易な行動を好まないわたしは、あえてこの寒さでフラペチーノを2杯味わうことにしたのだ。
(・・いや、悪いのはフラペチーノではない。急に20度も気温を下げる要因となった、前線の移動のせいだ)
3月もあと二日で終わるというのに、いったいどんな嫌がらせでこの寒さをぶつけてきたのか、はなはだ理解に苦しむ。もうすでに衣替えを終えた者も多いなか、新年度のスタートを心待ちにする我々に、なんの恨みがあってこんな仕打ちをするのだろうか。
とはいえ、布団に飛び込めば電気代もかからず一発解決ではあるが、そうなると仕事に支障が出るわけで、社会人たる身分を持つ以上は、心を鬼にして「布団の誘惑」に抗わなければならない。そんな理由からも、恨めしそうに布団をチラ見しつつ紫色の唇を噛みしめながら、ブルブルと震えていたのである。
(・・ダメだ、残りのフラペチーノを飲み切るには、暖をとる必要がある)
あと少し・・というところまで吸い尽くしたわたしだが、その「あと少し」がどうしても難しかった。このままでは低体温症で死んでしまうかもしれない。だからといって、残りのフラペチーノを諦めることもできない。となれば、選択肢は一つ。
——というわけで、冒頭の状況へとつながるのであった。
セラミックファンヒーターの前で体育座りをしながら、足の裏を温風に当てつつフラペチーノを啜(すす)るわたし。絶対的な信頼・・といっても過言ではないであろう温かさを顔面に浴びつつ、冷たいフラペチーノに舌鼓を打つ——あぁ、なんて幸せなんだ。
その後も、この場を離れる勇気が出ないわたしは、何十分・・いや、一時間以上もの間、ここでうずくまっているのである。
洗面所という狭い空間で、洗面台とバスタブそして洗濯機に囲まれて、小さなセラミックファンヒーターを抱きしめながら暖をとるシロガネーゼ。
この虚しさと哀愁漂う雰囲気が、完全なる春の到来を待ちきれずにフライングしてしまった"悲劇のヒロイン"を、より一層哀れに彩るのであった。
(ああ、マジでさっさと春になってくれないかな・・)
コメントを残す