オフロードピット那須と野生児

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運動神経は人並み、空間認識能力が低いうえに先を見通すことが苦手なわたしは、自動車の運転が苦手である。

それでも、他人の運転を見るのは面白い。たとえ漫画のように、実在する人間でなくとも、車というメカの構造や運転技術に触れることが好きなのだ。

だが決して、「自分でもあんな風に運転してみたい」などとは思わないので、不用意な期待を裏切られることもなく、いつまでも楽しく車のレースを見ていられるのである。

 

そしてわたしは、車以上に「バイク」という乗り物に対して、興味も関心も持っていない。とくにあんな危険な乗り物を、好んで乗る命知らずの気が知れない。

なぜなら、バイクと車がぶつかったら十中八九、バイク側が大怪我を追う。さらに、最悪の事態を招かないとも限らないわけで、天寿を全うしたければバイクなど乗るべきではない。

加えて、バイク乗りにとって冬場の寒さは武者修行並みの過酷さであり、そんな試練を課してまで、なぜバイクに乗ろうとするのか。理解に苦しむどころの話ではない。

 

そんなバイク競技の一つである、モトクロスとエンデューロ、そしてトライアルに挑戦できるコースを友人が作り、本日からグランドオープンということで、さっそく冷やかしに、いや、手伝いに那須へと向かったのである。

 

 

オフロードピット那須は、前出の3種目を楽しむことができるオフロードバイクコースとして、2023年2月1日にめでたくオープンした。

オフロードの種目は、名前くらいは聞いたことがあるが、どんな内容なのかは分からない。よって、現地で知り得た情報からまとめると、

 

・モトクロスは、人工的につくられたジャンプ台や勾配、急カーブなど起伏に富んだダートコースで、スピードを競うスプリントレース。

・エンデューロは、自然の山林に強引にコースをつくり、道なき道を何周も回るという、耐久力を要するマラソンレース。

・トライアルは、既定コースの途中にある岩や板などの障害物を、いかに足をつくことなくクリアできるかを競う、クロスカントリーと障害物競走をミックスさせたレース。

 

こんな感じだろう。

そして各地からオフロードバイクを持参して、多くのライダーが集まった。中には、国際A級ライセンスを持つ若者までもが訪れており、なんだか多彩な顔触れとなっていた。

 

オフロードバイクは、タイヤがデカくてシートやハンドルが高い位置につけられている。

これは、デコボコの山道を走るのに、衝撃を吸収するクッションが必要だからだろう。そしてこの立派なフロントフォークこそが、オフロードバイクの特徴なのではないかと、素人的には感じるのであった。

 

いずれにせよ、わたしがこの危険極まりない乗り物に乗ることはないため、怖いもの知らずのチャレンジャーたちを、冷ややかな目でコースへと見送り続けた。

ちなみに、本日の那須は積もっていた雪がとけたためか、地面はヌルヌルのブヨブヨにぬかるんでいる。そのため、多くの人間が泥濘に足を取られたりすっ転んだりするたびに、「バイクにまたがってもいないのにアレでは、先が思いやられるわ」と、内心呆れていた。

 

そして、東京からはるばる那須まで足を運んだわたしが感じた、一番の感想をここで述べよう。それはとにかく「自然とは厳しいものである」ということだ。

 

オフロードピット那須オープン当日は、奇跡的にも無風で快晴だったため、これは神に感謝すべきラッキーといえる。とはいえ、朝から夕方までずっと外をウロウロすることなど、都会人にとっては未体験ゾーン。

道路工事などガテン系の職業は別として、真冬の北関東の寒さを一日中体感することに、都会人であるわたしのカラダは適応していなかったのだ。

 

暇つぶしに、その辺にとめてあった子供用のバイクにまたがり、ドロドロのぬかるみをトコトコ走ってみるも、タイヤを取られて進めなくなるわ方向転換できなくなるわで、履いていたクロックスはドロまみれになった。

さらに、後輪から跳ね上がるドロで、ズボンや上着はカフェラテ色に染まった。おまけに、かじかむ指先はカサカサになって粉を吹きし、硬く乾いた唇からは血がにじんでいた。

 

(これは厳しい。厳しすぎるぞ、大自然・・・)

 

わたしは一秒でもはやく、暖房が活躍する屋内へ移動したかった。

バイクという、「事故ったら即死」の可能性を否定できない乗り物に、熱を上げる人々はクレイジーとしか言いようがない。しかも極寒の山奥で、なにが楽しくて全身泥だらけになりながらも駆け回り続けるのか――。

 

こうしてわたしは、コンテナを改造して作られた、立派な女子トイレへと逃げ込んだ。このエリアでは、ここが唯一の屋内だからだ。

 

 

わたしは野性的ではあるが、自然の厳しさにはついていけないということが、今日ハッキリと分かった。つまり「見かけ倒しの野生児」だったわけだ。

だがそれでいい。

温かい室内でぬくぬくしていられるならば、あえて野生に戻ろうなどとは思わないのだから。

 

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