山手線の新宿駅で乗り込んで来たのは

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山手線での帰宅途中、二度と会わない多くの人間に紛れて、わたしは目黒駅を目指していた。

時刻は23時を過ぎている。この時間にこれだけの老若男女が乗っているというのは、仕事帰りなのか飲み帰りなのか、いずれにせよ都会ならではの光景だろう。

 

友人(女)と他愛もない話で盛り上がっていると、いつの間にか新宿に到着した。ここは世界一の乗降者数を誇るハブ駅であり、やはり多くの人間が乗り降りしている。

わたしは座席を確保しているため、どれだけ人が入れ替わろうが影響はない。とはいえ、想像以上のデブや異臭を放つ輩が乗り込んで来たら、やむなく席を立つことになるが。

 

そして発車のアナウンスが流れドアが閉まろうとした瞬間、突然、ものすごく懐かしい友人が乗り込んで来たのだ。あれはたしか、高校の同級生だったか——。

わたしは思わず中腰になり、彼を指さして叫んだ。あまりの懐かしさに名前も出てこないが、それでも叫ばずにはいられなかったのだ。

 

まさかこんな時間にこんな場所で、しかもわたしと会うことを知っていたかのように、彼は満面の笑みで山手線に乗り込んで来たわけで、こんな奇跡のような偶然が起こりうるのか?

それにしても懐かしい、いやぁ、本当に懐かしい!

 

・・・というのは全部ウソ、いや、わたしの勘違いだった。

乗って来たのは隣に座る友人の夫で、おそらく時間と車両を予め伝えていたのだろう。だからこそ彼は「当然」という顔付きで堂々と乗り込んで来たのだ。

 

奴と最後に顔を合わせたのは数か月前、よって、たしかに久しぶりではあるが、「懐かしい」というほどの時間は経過していない。それでもなぜか、古くからの友人に何十年ぶりに会ったかのような懐かしさを感じた。

(・・・そうか、これは動物への愛着的なものか)

その時わたしは思った。この感覚は、どちらかというとヒトとしての懐かしさや好意というより、動物へのソレに似ているではないかと。

 

もしも今、この車内にカピバラが乗り込んできたら、飼い主の許可を得てからワシャワシャと擦り、マグロやトドばりにゴロンと寝転がすだろう。そして山手線が何周しようが、カピバラが下車するまでわたしも一緒に乗り続けるだろう。

あぁ、想像しただけでワクワクする・・。

 

さすがに、乗り込んできた彼にそこまでの愛着はないが、それでも久しぶりに会った動物のような懐かしさを覚えたのは間違いない。

撫でまわして床に転がしてやりたい気もするが、まぁそこまで可愛いわけでもないので、やはり人間止まりである。とはいえ、人間にも動物的な感覚が残っていることを知り、改めて野生を思い出すのであった。

 

 

関係ないが、動物の中でも「毛」を蔑ろにするのは人間くらいではなかろうか。頭髪が薄くなることは別として、体毛の処理に高額をつぎ込み、ツルツルのボディを目指す動物など、人間以外に存在しない。

動物にとっての毛は、外部からの熱や刺激を保護する役割があるため、生きるためにも重要なパーツである。とはいえ人間には、頑丈な体毛の代わりに衣服があるため、そこまで毛が重要とはならないが。

・・そんなことを考えながら自分の太い腕を見下ろすと、前腕に多数のムダ毛を発見した。——これはいかん、除毛しなければ。

 

どうやら再び、全身脱毛のターンがやってきたようだ。動物の真理からは外れるが、ニンゲンとして、いや、オンナとして生き抜くためには必要不可欠な行為である、脱毛。

人間界では「男女平等」とか「ジェンダーレス」などという、くだらない発想が流行りのようだが、動物界からすれば「男らしさ」「女らしさ」は間違いなく重要な要素であり、男と女で容姿も役割も異なるのが普通であり自然。

 

性別による「差別」ではなく「区別」というのは、当然ながら必要なことだ。それを、くだらない視点からビジネス化している人間は、野生に放り出されたら真っ先に死滅する霊長類であることは間違いない。

わたしはわたしの信念に基づき、圧倒的に淫靡で不埒なオンナらしさを振りまいて生きていこうと誓うのであった。

 

Illustrated by 希鳳

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