前から気になっていたのだが、「ブス」とか「美人」の定義ってなんだろう。
美人はなんとなくわかる。目鼻立ちが整っているだとか、小顔でスタイルがいいだとか、誰もが高評価を下す女性のことだ。
しかしブスは難しい。ましてや「ちょいブス」というジャンルは、非常に難しい。
ところが本日、奇遇にも「ちょいブス」二人と会う機会があり、わたしは彼女らをじっと観察することに成功した。
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我こそがちょいブス代表!と豪語する友人、志麻(仮名)。そんな彼女の職業は美容師。そもそもの発端は元カレの一言だった。
「アタシのどこが好き?」
「ちょいブスなところ」
こんな会話があったかなかったかは知らないが、元カレが志麻を「ちょいブス」と表現したことで、この言葉は市民権を得た。
そもそも「ブス」と言われて気分のいい女性はいないだろう。だが、あからさまに「美人」と言われて真に受ける女性も少ないはず。
となると、内心ムッとするが否定することなく受け入れられるレベルというのが、「ちょいブス」なのではなかろうか。
身近な女性を思い浮かべてもらいたい。極端な美人とブスは切り捨てて、適度な顔面の人物を評価するとき、「ちょい美人」と「ちょいブス」の2種類に分けられる。
だが「ちょい美人」ですら評価が分かれる可能性が高い。
しかし「ちょいブス」に関しては、誰もが同意するだろう。なぜなら、美人というにはやや足りない気がするが、ブスと言い切るにはしのびない場合、「ちょい」という言葉が付くだけで、完全にブスとは言っていない「安心感」が担保されるからだ。
「ふつうの顔」などという曖昧でニュートラルな顔面は存在しない。誰しもが、好きか嫌いかの二択で判断をする。
その点、誤解もなければ批判もされない表現こそが「ちょいブス」だと考えられる。
ーー志麻の顔を覗き込む。
今日はじめて気付いたが、彼女は実に美しいアゴを持っている。形の整ったおでこから続くスッキリとした美しいラインが、女性らしい輪郭を強調している。
さらに透きとおるような白さと、滴(したた)るようなみずみずしさを放つ肌。年齢よりもかなり若い肌質だ。
「そりゃ毎日保湿だのパックだの、手入れしてるからね」
誇らしげに志麻は言う。この肌が日々のメンテナンスの賜物だとすれば、そのパックはバカ売れするだろう。
ちょいブス代表の志麻は、美しい輪郭とみずみずしい肌を持ち合わせている。例えその他のパーツがブスでも、この2つの「武器」には評価を覆すほどのインパクトがある。
ーーなるほど、さすがはちょいブスの女王よ。
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もう一人の代表選手は、自らはさほどブスとは思っていないが、回りから「ちょいブス」の称号を与えられた友人、愛子(仮名)。
「遠くから見ると長澤まさみに似てるって言われるんだ」
はにかみながらそう言う愛子、危険な香りがプンプンする。
一般的に美人の部類に入る女性でも、長澤まさみに似ていることなどほぼない。それが、ちょいブスにランクインする愛子が、どれだけ遠く離れたとしても似ているはずがない、と誰もが思った。
そこで試しに5メートルほど離れてもらう。
「・・・似てる、かも」
驚きというよりあきらめに近い感想と苦笑いが、思わず漏れる。
恐ろしいことに、「長澤まさみ、長澤まさみ」と唱えながら薄目を開けると、5メートル先には「長澤まさみ風」の愛子が立っているのだ。
どこが似ているのか説明することはできないが、とにかく、どことなく長澤まさみに似ている部分があるように感じられた。
ツカツカとこちらへ歩み寄る長澤まさみは、近づくにつれ、確実に愛子へと変わっていった。そして最後はいつも通りの「ちょいブス」が立ちはだかっていた。
とはいえ愛子の名誉のために補足しておくと、至近距離で確認しても「ブス」の要素は見当たらない。志麻がそうであるように、愛子も肌は綺麗なのだ。本物の長澤まさみに負けず劣らず、きめ細かな絹のような肌をしている。
そしてまつ毛は上も下もたっぷりと生えており、見ようによっては「黒目がちな麗しい瞳」と言えなくもない。
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結局のところ、リアルなブスに対しては「ブス」などという言葉を口にはできない。
ではなぜ「ちょいブス」と悪口を言われるのか。
ーーここが大きな勘違いだ。
「ちょいブス」は悪口でもなんでもない、当人のキャラクターを反映した「愛称」なのだ。
つまり、実際にブスだろうが美人だろうがどちらでも構わない。ただ「ちょいブス」と表現するほうが、言った側も言われた側もどこか気持ちにゆとりができ、親近感が湧く。
「お前は美人だから××」
と言われるのと、
「お前はちょいブスだから××」
と言われるのとでは、後者のほうが反論の余地もあり、会話が弾む。さらに本当に褒めたい部分を際立たせ、強調させることができる。
その会話を聞いていた第三者も、「ちょいブス」の顔を見れば「そんなことない、美人だよ」とフォローする可能性が高い。
だが「美人」の顔を見れば「え・・・」となるリスクを否定できない。むしろ往々にしてそうなる。
ということで、これからは自分を「ちょいブスのURABEです」とアピールしていくことにしよう。
Illustrated by 希鳳
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