ずっしりと重たい金属パイプが、段ボール箱に梱包された状態でわが家に届いた。
「重たいので気をつけてくださいね」と、宅配業者のオッサンが親切に注意喚起をしてくれるが、そんなことは分かっている。
まるでサランラップが50本くらい入っていそうな、縦長の大きな段ボール箱。その中身は——自立式ゆらゆらハンモックなのだから。
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五月というのは過ごしやすい気候である上に、電気代を抑えることができる素晴らしい月である。
日中は半袖でも十分な温度だが、夜には20度を下回るため、時には薄手の長袖を羽織って温度調節をするような、オシャレで快適な季節。
そのため、わが家の最大功労者であるエアコンが、この時期だけ重労働から解放されるのだ。来月になればもう、夏の暑さから24時間フル稼働で酷使されるわけで、奴らにとっては束の間の休息といった感じか。
そんな快適な季節を満喫しながら、わたしはふと想像したのである。
(もしも、ベランダでハンモックに揺られながら昼寝ができたら、そんな贅沢が許されるのならば、是非とも実現したい・・・)
SNSでは友人らが山や河原でキャンプをしたり、自宅の屋上でバーベキューをしたりと、明らかに「人生の勝ち組」であることを見せつけられる日々。
とはいえ、キャンプ用品もなければバーベキューなどできるはずもないわたしは、そんな彼ら彼女らのキラキラした姿を、恨めしそうに指をくわえて眺めていたのだが、ある時"疑似ソロキャン"なるものを思いついたのだ。
(キャンプといったらアレだ、ハンモック。木陰でアレに揺られながら、昼寝をしたり読書をしたり、たまにコーヒーを飲みながら鳥のさえずりに耳を傾けたり——よし、この狭いベランダにハンモックを設置しよう!!)
爽やかな木漏れ日も川のせせらぎも、残念ながらここでは再現できない。だが、せめてハンモックならば組み立てられるはず。自分でできなくても、隣人に組み立ててもらえばいいわけで。
こうしてわたしは、得意のAmazonで"自立式のゆらゆらハンモック"をクリックしたのである。
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暑くもなく寒くもないこの時期、心地良いそよ風がそっと頬を撫でる。ゆったりとしたワンピースに身を包み、サングラスをかけたままウトウトしていたわたし。
(もうそろそろ、ティータイムの時間ね)
茶葉の香り立つアールグレイを片手に、Zuckerbäckerei Kayanuma(ツッカベッカライ カヤヌマ)の人気商品であるテーベッカライと、ウィーンの伝統的なチョコレートケーキ・ザッハトルテで、穏やかな昼下がりを堪能することにした。
ふと天を仰げば、真っ青な空に微かな雲が漂っている。さらに遠くのほうでは、どこか異国の地へ向かうのであろう飛行機の姿も見える。
(あぁ、わたしもあの飛行機のように、自由気ままにフワフワと生きたいものだわ——)
そっと目を閉じると、まるでウィーンの森にいるような気高くも清々しい空気を感じる。そんな情景に身を委ねながら、わたしは再びハンモックに横たわると、ゆらゆら揺れながら眠りについたのである。
・・・これこそが、わたしの求める「ベランダでハンモック」の真髄だ。これを実現するべく、金欠にもかかわらず折り畳み式ハンモックを購入したのだから。
あとは、ゆったりとしたワンピースとアールグレイ、そして高級クッキーとザッハトルテさえあれば、夢が実現するのだから簡単な話である。
ところが、このハンモックが届いてからかれこれ一週間が経過する。にもかかわらず、ハンモックが段ボールから顔を出す日は未だ訪れていない。
こんなものは開けたら最後、その場で組み立てなければならないわけで、もしも大雨かつ強風だったりしたら、あの美しい夢が台無しになる。つまり、日を選ばなければならないのだ。
しかし、「今日は曇り時々雨らしい」「今日は日差しが強すぎる」「今日は蚊に刺されたからやめておこう」「今日は外がうるさいからパス」という具合いに、運悪く"ハンモックを完成させられない事情"というか状況が続いてしまったのだ。
(・・・この段ボール箱、ちょっと邪魔だな)
そして今日、ついにこんなことを思い始めてしまったわたし。これは、すぐさま組み立てなければ「箱を開封することなく、誰かに押し付ける未来」が見え隠れし始めた証拠である。
わたしが"ウィーンの森のそよ風を感じる日"は、果たして訪れるのだろうか。
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