充実の日曜日

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わたしは今日、短時間で3つのミスを犯した。

 

 

一つ目のミスは新幹線に乗ってすぐの出来事。

「朝だから牛乳を飲もう」と購入した、森永牛乳のパッケージがいびつなことに気づく。デコボコしているというか、八角形というか。

 

通常、200mlの飲み物は縦長で四角形のパックに入っている。しかしこの牛乳は、真ん中より下の角がつぶれており、八角形となっている。

 

ーー持ちやすくしたのかな?

 

そう思いながら、なんとなく友人へ画像を送る。すると、

「握ってつぶしたのかと思った笑」

と返信がきた。

 

「誰がにぎってつぶすか!」と内心笑い飛ばすも、果たして本当に牛乳パックを握りつぶすと、このような八角形になるのかどうか確かめたくなった。

 

そもそもこの形、たしかに八角形に見えるが、よーく見たらそれぞれつぶれ方がバラバラの可能性もある。

つまり、店頭へ陳列する際に落としてつぶれたとか、コンビニへ納品される時点ですでに凹んでいたとか、何らかの事故により変形した可能性がある。

 

ーー疑問は、解決してこそ血となり肉となる。

わたしはギュッと、牛乳パックをにぎりしめた。

 

ブシュッ!!!

 

ストローから牛乳が飛び出す。まぁ、当たり前だ。

握りしめた左手は牛乳まみれ。そこから流れ落ちる牛乳はTシャツとズボンにぐっしょりとしみ込んだ。

 

この牛乳くさい衣装で一日を過ごさなければならないとは、なんたる不運。

すぐさま洗面所で衣服を洗い、びしょ濡れの状態で残りの新幹線移動を満喫した。

 

 

二つ目のミスは新幹線を降りたとき。

改札を出ようと尻のポケットに手を突っ込んだところ、切符がない。よくよく考えれば、尻のポケットに切符を入れた記憶などない。

さらに記憶をたどると、窓際に切符を立てて遊んでいたことを思い出す。

 

ーーしまった!

 

そうだ。切符を窓際に置いたまま下車したのだ。

 

改札で駅員に事情を説明し、

「8号車14番D席の窓に、切符が立てかけてあるから!」

と宣言。

 

しかし駅員、そう簡単に「キセル」はさせまいと、わたしを通過させない。

もう一人の駅員が新幹線の車掌へと電話を繋ぎ、わたしが主張する座席へ切符を確認しに向かう。

 

「お客様、切符がありましたのでお通りください」

 

あったりめーだ!と、プリプリしながら改札を後にするわたし。

だが一つだけ気まずいことがある。それは、牛乳をぶちまけたため、座席周辺が白くなっていることだ。

 

もちろん、きれいにしようと車掌におしぼりを求めた。だが「あいにくおしぼりの用意はありません」と掃除を拒否されたのだ。

 

車掌はきっと、

「あいつ、牛乳こぼした上に乗車券まで置いてくなんて、よっぽどのカスだな」

と思ったことだろう。

 

ほぼその通りだから反論はしない。

 

 

そして三つ目のミスはかなりの痛恨。

わたしがなぜ新幹線に乗ったかというと、ある演奏会を聴きに行くためだ。

 

途中、牛乳をにぎりつぶしたり、新幹線の乗車券特急券をなくしたり、それなりに困難はあれども気がつけば会場に到着。

そしてすぐさま「当日券売り場」へ向かった。

 

するとわたしの前の人が、

「当日券は売り切れです」

と門前払いを食った。

 

ーーまずい。

 

わたしはとっさに関係者のフリをした。腕を組み、カッコつけながらロビーを見渡す。

そうだ、ここでチケットがないことがバレれば追い返される。とりあえず隙を見て忍び込もう。それまでは関係者だーー。

 

およそ数分の間で、10人以上の当日券を求める客がバッサバッサと斬りつけられた。

 

これはどうあがこうが無理だ。さすがのわたしも、ここは完全に関係者モードで乗り切るしかないと判断。

すると突然、

 

「あのぉ」

 

若い男子が声をかけてきた。

「当日券はもうないんでしょうか?」

なぜわたしに聞く。

 

「あぁ、もうないよ。ごめんね」

とりあえず、事実を伝える。

「そうなんですか。ていうか係の方ですよね?どうにか入れてもらえませんか?」

ーーわたしだって入りたいんだよ、少年。

 

このようなやりとりが4回あった。わたしがカッコつけて偉そうにロビーをウロウロしているため、係と間違えて声をかけてくるのだ。

 

そしてその都度、わたしは係らしく対応した。

 

もちろん嘘など言わない。当日券は完売だし、どうやったって中へは入れないよ、となだめすかして追い返すだけだ。

 

皆ガックリと肩を落とし、エレベーターで帰っていった。

 

 

そんなわたしはと言えば、コロナ禍における厳重な入場制限と身分確認を突破できず、ロビーに居座り続けた。

 

同じくチケットが手に入らず、門前払いを食って泣きそうな女性がいたので話かけてみる。

名を「オオムラちゃん」と言い、彼女と4時間ほど文句を垂れながら、たまに漏れ聞こえる音をツマミに演奏会(愚痴の会)を堪能。

 

それなりに充実した日曜日だった。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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