わたしは今日、短時間で3つのミスを犯した。
*
一つ目のミスは新幹線に乗ってすぐの出来事。
「朝だから牛乳を飲もう」と購入した、森永牛乳のパッケージがいびつなことに気づく。デコボコしているというか、八角形というか。
通常、200mlの飲み物は縦長で四角形のパックに入っている。しかしこの牛乳は、真ん中より下の角がつぶれており、八角形となっている。
ーー持ちやすくしたのかな?
そう思いながら、なんとなく友人へ画像を送る。すると、
「握ってつぶしたのかと思った笑」
と返信がきた。
「誰がにぎってつぶすか!」と内心笑い飛ばすも、果たして本当に牛乳パックを握りつぶすと、このような八角形になるのかどうか確かめたくなった。
そもそもこの形、たしかに八角形に見えるが、よーく見たらそれぞれつぶれ方がバラバラの可能性もある。
つまり、店頭へ陳列する際に落としてつぶれたとか、コンビニへ納品される時点ですでに凹んでいたとか、何らかの事故により変形した可能性がある。
ーー疑問は、解決してこそ血となり肉となる。
わたしはギュッと、牛乳パックをにぎりしめた。
ブシュッ!!!
ストローから牛乳が飛び出す。まぁ、当たり前だ。
握りしめた左手は牛乳まみれ。そこから流れ落ちる牛乳はTシャツとズボンにぐっしょりとしみ込んだ。
この牛乳くさい衣装で一日を過ごさなければならないとは、なんたる不運。
すぐさま洗面所で衣服を洗い、びしょ濡れの状態で残りの新幹線移動を満喫した。
*
二つ目のミスは新幹線を降りたとき。
改札を出ようと尻のポケットに手を突っ込んだところ、切符がない。よくよく考えれば、尻のポケットに切符を入れた記憶などない。
さらに記憶をたどると、窓際に切符を立てて遊んでいたことを思い出す。
ーーしまった!
そうだ。切符を窓際に置いたまま下車したのだ。
改札で駅員に事情を説明し、
「8号車14番D席の窓に、切符が立てかけてあるから!」
と宣言。
しかし駅員、そう簡単に「キセル」はさせまいと、わたしを通過させない。
もう一人の駅員が新幹線の車掌へと電話を繋ぎ、わたしが主張する座席へ切符を確認しに向かう。
「お客様、切符がありましたのでお通りください」
あったりめーだ!と、プリプリしながら改札を後にするわたし。
だが一つだけ気まずいことがある。それは、牛乳をぶちまけたため、座席周辺が白くなっていることだ。
もちろん、きれいにしようと車掌におしぼりを求めた。だが「あいにくおしぼりの用意はありません」と掃除を拒否されたのだ。
車掌はきっと、
「あいつ、牛乳こぼした上に乗車券まで置いてくなんて、よっぽどのカスだな」
と思ったことだろう。
ほぼその通りだから反論はしない。
*
そして三つ目のミスはかなりの痛恨。
わたしがなぜ新幹線に乗ったかというと、ある演奏会を聴きに行くためだ。
途中、牛乳をにぎりつぶしたり、新幹線の乗車券特急券をなくしたり、それなりに困難はあれども気がつけば会場に到着。
そしてすぐさま「当日券売り場」へ向かった。
するとわたしの前の人が、
「当日券は売り切れです」
と門前払いを食った。
ーーまずい。
わたしはとっさに関係者のフリをした。腕を組み、カッコつけながらロビーを見渡す。
そうだ、ここでチケットがないことがバレれば追い返される。とりあえず隙を見て忍び込もう。それまでは関係者だーー。
およそ数分の間で、10人以上の当日券を求める客がバッサバッサと斬りつけられた。
これはどうあがこうが無理だ。さすがのわたしも、ここは完全に関係者モードで乗り切るしかないと判断。
すると突然、
「あのぉ」
若い男子が声をかけてきた。
「当日券はもうないんでしょうか?」
なぜわたしに聞く。
「あぁ、もうないよ。ごめんね」
とりあえず、事実を伝える。
「そうなんですか。ていうか係の方ですよね?どうにか入れてもらえませんか?」
ーーわたしだって入りたいんだよ、少年。
このようなやりとりが4回あった。わたしがカッコつけて偉そうにロビーをウロウロしているため、係と間違えて声をかけてくるのだ。
そしてその都度、わたしは係らしく対応した。
もちろん嘘など言わない。当日券は完売だし、どうやったって中へは入れないよ、となだめすかして追い返すだけだ。
皆ガックリと肩を落とし、エレベーターで帰っていった。
*
そんなわたしはと言えば、コロナ禍における厳重な入場制限と身分確認を突破できず、ロビーに居座り続けた。
同じくチケットが手に入らず、門前払いを食って泣きそうな女性がいたので話かけてみる。
名を「オオムラちゃん」と言い、彼女と4時間ほど文句を垂れながら、たまに漏れ聞こえる音をツマミに演奏会(愚痴の会)を堪能。
それなりに充実した日曜日だった。
Illustrated by 希鳳
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