机上の喰論

Pocket

 

カネを稼ぐことについて、わたしには一つの持論がある。

 

仕事というテイだとしても、楽しみつつ、大した苦労もせずにカネを得るのは「趣味」。

そして、やりたくないけどカネを得るためにどうにかするのが「仕事」、という考えだ。

 

楽しみつつ遂行した作業でカネをもらえるのは、ある意味超ラッキー。なぜなら「趣味でカネをもらう」から。

 

逆に、面倒くさくて悩み苦しみながら完遂したものに対して、カネをもらうのは当たり前。なぜなら「仕事の対価として報酬を得る」わけで。

 

そう思うと、カネを手にする方法は「趣味」と「仕事」の2種類しかない。

カネを得られるのならばどちらでもいいし、どちらかと言えば楽をして(嫌な思いをせずに)儲けられるほうが気分もいいので、「趣味」で稼げるほうがいい。

 

だが、世の中そんなに甘くはない。

 

わたしは日々「仕事」をこなしている。それに関して、特段なにか思うわけでもなく、ただ淡々とこなすのみ。

 

なぜなら、仕事だからだ。

 

 

今日も朝から苦手な作業に取り組んでいる。要するに、仕事だ。

 

まぁ、稼ぐ手段として趣味だけでカバーできれば、そんなラッキーなことはない。だがわたしの能力でそれは不可能。

よって、「仕事」を挟まなければ生きていくことができない。

 

しかしなぜこうも「仕事」ってやつは、頭も体も乗り気にならないんだろう。イヤイヤながらもせめて指だけでも動いてくれれば、それなりに進むはずなのに。

 

仕事を進めるにあたり、およその見通しを立てる必要がある。

そして不足している情報や条件があれば、補うためにインプットを行わなければならない。

 

ーーそんなことは分かってる。誰にだって分かることだ。

 

だがどうにもこうにも頭がソッチを向かない。気分が乗らないというか、何となくよそ見をしたくなる心境というか。

 

あえて表現するなら、

「大嫌いな牡蠣とあんことグリンピースを、上客の前だからと無理やり笑顔で食べさせられる」

という感じ。

ーーちょっと違うか。

 

参考図書を読んでいても、なぜか次のページへ進まない。

仕方なく強引に次のページへと読み進めるうちに、必要箇所が終わった。

 

「では、何を理解しましたか?」

と、自らに尋ねる。

「一言一句、記憶にございません!」

と、胸を張って答える。

そして再び、最初のページへ戻る。

 

この繰り返しで何時間が経過したことか。

 

そのうち腹が減ってくる。絶賛減量中なので、冷蔵庫からサツマイモとトウモロコシを取り出し、レンジでチンする。

料理は不得手なわたしだが、サツマイモとトウモロコシの調理にかけては相当な自信がある。

トウモロコシなど、サランラップすら使わず自然のままの調理法で完成させる。

 

さらにサツマイモと言えばコーヒーだ。ウーバーイーツでコーヒーを注文し、到着と同時に飲食を開始。

 

胃袋を満たすと再び分厚い本と向かい合う。

今度こそ、言葉の意味を理解しながら読み進めようと覚悟を決める。

 

しかし「余計なやる気」というやつは、往々にして空回りとなる。

 

「1994年の旧労働省による、ってことは、現在の厚生労働省っていつできたんだ?」

 

「法の基本的性格、って聞くと、まるで生き物みたいだな。生き物なのかな?」

 

「ファクシミリまたは電子メールによる送信でもよい、って、今どきファクシミリなんてガラクタが自宅にある人、いるの?」

 

本題から外れた疑問や揚げ足取りの末、1ページも進まずに数時間が過ぎる。

 

ーー少し頭をつかい過ぎたかな。一休みするか。

 

こうして日が暮れ、夜を迎える。

これだから「仕事」というやつは捗らないのだ。

 

だが「仕事」を放置するわけにもいかず、もはや泣きっ面にハチの状態で、渋々指だけを動かし始める。とはいえ脳内は不平不満が渦巻いており、集中力など微塵もない。

 

ーー何でこんな思いをしてまで仕事をしなきゃならないんだ。なにも「やりたいことしかやらない!」とは言わない。せめてわたしの得意分野でカネが稼げれば、それに越したことはないのに。あぁどうしてこうも世の中ってやつは上手くいかないんだ。

 

そんな文句を延々と垂れながらも、気付くと「仕事」は終わっていた。

 

ーーそうか!仕事は文句を垂れながら、むしろ不平不満に注力しながら進めればいいんだ。変に「気持ちを入れよう」とか「やる気を奮い起こそう」とか思うから、うまくいかないんだ。

マシーンのように淡々と、与えられた条件をクリアすればいいだけだ。なんてったって「仕事」だからな。

 

 

仕事は面倒で嫌なもの。

だからこそ、感情移入することなく淡々と進めるのが正解だ。

 

もし楽しく進めることができたなら、それは仕事ではない。趣味だ。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

Pocket