思い込み、というものは恐ろしい。
当人にとっては「そうに違いない」わけで、疑う余地もない。
「思い込むのは良くないよ」
などと言うが、そもそも思い込んでいるかどうかすら判断がつかない場合、そんなことを言われても困る。
*
モチ好きを公言する私に、モチ第三弾が届いた。
その名も安倍川モチ。
安倍川モチとは何ぞや。
ウィキペディアによると、
「江戸時代初期、安倍川岸で、徳川家康が茶店に立ち寄った所、そこの店主が黄な粉を安倍川上流(梅ヶ島)で取れる砂金に見立て、つき立ての餅にまぶし、『安倍川の金な粉餅』と称して献上した。家康はこれを大層喜び、安倍川にちなんで安倍川餅と名付けたという伝承がある。」
とのこと。
つまり、モチにきな粉がまぶしてあるものが安倍川モチらしい。
無知で非常識がウリの私は、当然ながらこの事実を知らなかった。
素直に告白すると一昨日、
「安倍川モチ好き?日本一おいしいと思ってるお店あるから、送ろうか?」
と友人からラインが来た。
即答で「食べたい!!」と返事をするも、安倍川モチがどんなものなのか、その時点ではよくわからなかった。
むしろ、五平餅(ごへいもち)をイメージしており、タレをつけたモチ米をわらじ型に伸ばし、割りばしのような木の棒に刺して焼いたものだと思っていた。
とにかく、私の脳には「日本一おいしいモチ」という文字だけが届いたのだ。
その翌日、日本一うまい安倍川モチがクール便で運ばれて来た。
(おや、想像より小さい箱だな)
串焼きの五平餅を想像していた私はその小ささに一瞬驚くが、すぐさま高級そうな包み紙をはがして蓋を開ける。
するとそこには、キレイな緑色の四角いモチが整列していた。
モチとして最も正しい四角形のお手本と言える、美しい直方体。
抹茶色の粉をまとった由緒正しいモチたち。
さっそく、口へと放り込む。
なんとも上品な甘みに優しい噛みごたえ。
皇族のお茶請けと間違うほどの、上質なお味。
これ一箱で一家族分らしいが、私は一人世帯のため一人で食べ尽くした。
そしてお礼のメッセージを送る。
「安倍川モチ、うまかった!!きな粉よりこっちのほうがうまい!!」
するとややかみ合わない返事が。
そこで、
「安倍川モチ、表面の粉がきなこみたいじゃない?緑のきな粉」
と返すと、
「あぁ、あれきな粉だよ。青ばた豆でできてる」
(・・・え?)
私は、きな粉というものは黄色いものだと思っていた。
正確には、そう思い込んでいた。
そもそも「黄な粉」と書く場合もあるわけで、黄色い粉であることは間違いない。
それが「緑の粉」で「黄な粉」とは、どういうことだ。
再登場のウィキペディアによると、
「きな粉(きなこ、黄粉)は、大豆を炒って皮をむき、挽いた粉である。加熱により大豆特有の臭みが抜け、香ばしい香りになる。語源は『黄なる粉』で、黄な粉とも書く。」
・・ほら、黄なる粉じゃん。
と、その先に捕捉が。
「ただし実際には黄色ばかりの粉とは限らず、黄大豆を原料にしたきな粉は黄褐色なのに対し、青大豆を原料にしたきな粉は淡緑色なので、『青きな粉』や『うぐいすきな粉』と呼ばれる。」
・・・。
下賜されし安倍川モチがまとっていた、緑色のお召し物は「青ばたきな粉」というもの。
青ばた豆は別名「青大豆」とも呼ばれ、黄色い大豆よりも糖分が多い。
そして青大豆の栽培はとても難しい上に病気にかかりやすいため、農家にとってはリスクのある作物。
それゆえ広い面積で栽培することができないのだそう。
そんな貴重な青大豆を使った安倍川モチこそが、恩賜の品である福田屋の安倍川モチなのだ。
「み、緑色のきな粉で合ってたんだね・・」
「そうだね笑」
本日私は、きな粉は必ずしも黄色ではないことを知った。
*
「思い込み」でもう一つ。
友人のサトシは笑っても怒っても表情の崩れない、端正な顔立ちをしている。
レトロなセルロイド人形のような。
たまたま、友人ら4人と過ごしていた時のこと。
「サトシはアンドロイドだよね?」
友人がいきなり爆弾発言をした。
するとサトシは、
「そうだよ」
と、平然と答えた。
(は??)
一瞬、状況が飲み込めない私は顔を上げ、サトシをアンドロイドだと暴露した友人を見る。
すると、彼女はスマホを手にしていた。
そう、アイフォンではなくアンドロイドだよね、ということだったのだ。
だが、サトシが実際にアンドロイドだったとしても納得はいく。
そのくらい、アンドロイドチックな顔立ちだからだ。
Illustrated by 希鳳
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