冷やし春菊天そば

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オシャレタウンの代名詞ともいえる中目黒。その中目黒駅の真横に、24時間営業の蕎麦屋がある。そう、吉そばだ。

(ちなみにわたしは、ついさっきまで店名を「きちそば」だと思っていた。しかし調べてみると、なんと「よしそば」だった)

 

腹が減っていたわたしは、何気なく店先のメニューに目を向ける。

(春菊天・・・)

あまり聞かない名前の天ぷらだが、なぜかそそられる。悪くない、ここへ入ろう。

 

しかし春菊など、子どもの頃は大嫌いな野菜の筆頭だった。

母親の調理が下手だったせいもあるが、小学生相手に春菊のお浸しやら和え物やらを出したところで、どこのガキが喜ぶというのか。

 

だが時を経て大人になり、さらに年を重ねて中年になると、こういった得体のしれない草や葉っぱに「旨味」を感じるから不思議である。

 

たとえば下仁田ネギ。父親の実家が群馬ということもあり、なぜか我が家には大量の下仁田ネギが常備されていた。

極太の茎を輪切りにし、みそ汁へぶっこんだものが食卓に並ぶのだが、あんなものを「うまい!」といって飲み干す子どもなど、いるはずもない。

母親の目を盗んで、箸で下仁田ネギをお椀の底へ沈めると、

「ごちそうさまでしたぁ!」

と勢いよく台所から逃げ出したものだ。

 

そんな下仁田ネギが、最近では美味いと感じるようになった。

しかも実家で出されたような極太の下仁田ネギというのは、スーパーでもあまり見かけないわけで、もしかするとあれは超一流のネギだったのかもしれない。

 

今でこそ、適当な下仁田ネギを見て、

「こんな細いの、本物の下仁田ネギじゃないわ」

と悪態をつくまでに下仁田ネギファンとなったが、当時からするととてもじゃないが想像もつかない。

 

あとはタケノコか。昔から好きでも嫌いでもなかったが、ここ最近はタケノコが美味いと思うようになった。

あるとき友人が、庭に生えていたタケノコを掘ってきて食べさせてくれたのだが、それが非常に美味かった。味付けが凝っているとかではなく、純粋にタケノコの味が響いたのだ。

人様のお宅にもかかわらず、タケノコをすべて平らげてしまうほど、やめられない止まらない状況となった。

 

これらと似たような感じで、今ならば好きな部類に入る野菜というのが、春菊である。

 

そういえばしゃぶしゃぶの食べ放題で、野菜の中に春菊が混じっていることがある。かつては避けていたが、最近では率先して食べるようになった。

あの独特な苦味というか、セロリやパクチーにも共通する「爽やかな香り」、あるいは「毒々しさ」が、肉一色となった口内を一掃してくれるため、しゃぶしゃぶやすき焼きにおいて、春菊はなくてはならない存在である。

 

それにしても、なぜあんなにも苦くて毒々しいものを食べようと思ったのか。

春菊に限らずパクチーやセロリ、ピーマン、ゴーヤなどを最初に発見した人は、ある意味”勇敢な戦士”として称えられるべきだろう。

 

そんな春菊の天ぷらが乗っかった蕎麦が480円で食べられるとあり、ならばついでにネギと生卵をトッピングしたあげくに大盛りで注文してやろう、ということで、本日のスペシャルミールが完成した。

 

2分ほどで登場した「冷やし春菊天そば」を見て驚いたのは、別皿のネギが山盛りだったことだ。

わたしのイメージでは、春菊の天ぷらのはじっこにチョイチョイと散らす程度のネギが乗っている予定だった。

だがこれは、もはや「ネギ蕎麦」という名称でメニューに載せられるほどに、大量のネギが盛られている。しかも別皿で、だ。

 

(やべぇ・・。明日、至近距離でヒトと話すんだった)

 

もはや引き返すことはできない。切りたての刺激臭がプンプン漂う生ネギを蕎麦に盛ると、せっせとネギ蕎麦を食べ始めた。

無論、春菊の天ぷらも食べたし美味かった。なにより衣が薄いので、てんぷら油嫌いのわたしでも嫌悪感なく食べることができてよかった。

 

そしていま、帰宅してヨーグルトを1キロほど食べたところだ。

しかしどこからともなく漂ってくるネギ臭は、鎮まる様子がない。

 

(もう駄目だ。わたしはネギ臭い女というレッテルを貼られるんだ)

 

まぁそれでも、蕎麦も春菊の天ぷらも美味かったわけで、結果として満足である。

 

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