一年越しの昭和プリン

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これは本当に「あるある」だが、宅配便を時間指定したときに限って、インターホンが鳴った瞬間に滅多にいかないトイレに入っていることが多いわたし。

無論、確実に荷物を受け取るためにも、なるべくその時間帯はシャワーやトイレを避けるようにしているが、にもかかわらずピンポイントでわずかな隙を突いてくるから恐ろしい。

 

さすがに、こちらから時間指定した分際で悠長にシャワーを浴びることはないが、たとえば身支度を整えようとドライヤーで髪の毛を乾かしていると、インターホンが鳴ったとしても気がつかない。その結果、指定時間内に荷物が届くことはなく、怒り狂ってポストを開けると一通の不在通知が——という経験が何度もある。

そしてその度に思うのだ、「なぜよりによって、あの数分を狙って訪問したんだ」と。

とくに午前中など、8時半から12時までという長丁場を強いられるため、トイレやシャワーどころか、コーヒーを買いに行ったりコンビニへ出掛けたりすることすらできない。

 

そんなわけで、今回もまさかのトイレ中に我が家のインターホンが鳴ったわけだが、そこはさすがにプロの宅配業者。一度目の呼び出しに応じなかったわたしに対して、二度目のチャンスを与えてくれた。そして無事、冷え冷えの荷物を受け取ることができたのだ。

冷え冷えの荷物の中身は——手作りプリンだった。

 

 

かねてから「(柔術の)黒帯で優勝したら、プリンを作ってやる」という約束を取り付けていたわたしだが、待てど暮らせどその時は来なかった。なぜなら、試合に出るたびに負けていたからだ。

ところが、一年越しでついにその権利を行使したわたしは、待ちに待った手作りプリンを受け取ることに成功した。さっそく開封すると、そこにはダイソーのタッパー(友人談)一面に広がる、見事なプリンの大海原——あぁ、これは大好物の「昭和プリン」じゃないか!!

 

プリンというのは好みが分かれるもので、個人的にはイマドキの「とろーりとろけるプリン」よりも「硬さのある昔ながらのプリン」が好み。

「そのプリンは、午後3時から夜11時頃までかかった大作。なぜなら、卵は高熱を急にかけると鬆(す)が入るから、低温でじっくり焼かないといけないからだ」

とりあえず、「鬆」という漢字が読めない&意味が分からないわたしは、すぐさまネットで調べた。これはどうやら、”卵を使った蒸し料理などを作る際に、表面や内部にポコポコと細かい気泡のような穴があいてしまう状態”を指すのだそう。

(たしかに・・プリンや茶碗蒸しの表面に、気泡みたいな跡があるのを見たことがある)

そして、やるなら徹底的に!というタイプの友人は、この「鬆(す)」が入らないように、じっくり時間をかけてプリンを焼き上げてくれたのだ。

 

ちなみに、友人はオトコであり料理のプロではない。だが、ひょんなことからプリンを作り始めた彼は、ことあるごとにその進捗状況を報告してくれた。

そんな”プリン職人”の成長過程をさかのぼると、まさにちょうど一年前に試作品を手掛けていたことが分かった。

そこから少しずつ改良を加え、ミルクパンやらステンレスボウルやら調理器具を買い替えたり、牛乳や砂糖の種類を変えてみたり、耐熱容器のサイズや形状をわたし用に見繕ってくれたりと、持ち前のこだわりを発揮しつつ最高傑作へと近づけて行ったのだ。

 

なお、今年2月の時点で「31作目」となる試作品の報告を受けているので、10月ともなるとあわや50作を超えている可能性もあるが、とにかく後はわたしの優勝を待つのみ・・という状態で、ようやくその時が訪れたのである。

そして届いた至高の昭和プリン——おぉ、なんとレトロでいい感じなんだ!!

 

まずはスプーンを刺す前の大海原を撮影し、喜び勇んで礼とともにこの画像を送ったところ、友人からまさかのコメントが返ってきた。

「宅配業者、ひっくり返したな・・」

その返信を見たわたしは驚いた。なぜそんなことが分かるのか?もしかすると、わたしの扱いが雑だった可能性もあるのに、なぜ業者だと言い切れるのか——。

その後、友人から完成直後のプリンの画像が送られてきたことで、わたしは納得するとともに愕然となってスマホを落とした——たしかに、全然違うじゃないか・・・!!

 

一度でもプリンを作ったことのある者ならば、一目で状況を把握することができただろうが、そもそも経験のないわたしにとっては、なんの違和感もない「美味そうな昭和プリン」にしか見えなかった。

とはいえ、数分後にはすべて胃袋へ収まってしまう未来を鑑みると、見た目の美しさよりも濃厚な味としっかりとした舌触り、そしてほのかに残るまろやかでコクのある後味のほうが重要。

その点では、ひっくり返されたプリンであっても、なんら問題はない。そして言うまでもなく、そのプリンは美味かった!

 

 

つくづく思うことだが、わたしはとにかく友人に恵まれている。しかも、手作り料理を与えてくれる友人に恵まれているのだ。

これからも、そんな友人らによってわたしの胃袋が満たされ続けることを願いたい。

 

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