(・・こ、この手触りは、まさにカピバラ!)
目を閉じていても、いや、目を見開いていても、この撫で心地はカピバラである。カピバラマニアのわたしが言うのだから間違いはない。これは・・・カピバラだ!
カピバラを初めて撫でたとき、
「思っていたよりも毛が硬い」
と、誰もが答える。かくいうわたしもそう思ったわけで、水辺で生きる動物の毛というのは、細くて柔らかい毛が密集しているのではなく、太くてゴツイ毛が適度に生えているのだ。
濡れた体を乾燥させるとき、細くて柔らかい毛をブルルとしたところで、水分は大して吹き飛ばない。その点、太くて硬い毛であれば、一発ブルルとやるだけで大方の水分を消し去ることができる。
要するに、野生動物の体のつくりというのは、生きるために無駄なくできているのだ。
とにかく、毛並みといい皮膚の色といいカピバラそっくりな"それ"を手のひらで転がしながら、わたしはしみじみと思った。
(・・これ、毛も皮も食えるのかな)
"小さなカピバラ"であるその正体は、キウイだ。
一般的なキウイフルーツといえば、ヘイワードという品種が有名。スーパーなどで売られているほとんどは、ヘイワードである。だがわたしが手にするこのキウイは、ヘイワードが自然交雑して生まれた「香緑(こうりょく)」という品種だ。
香緑は、香川県農業試験場府中分場が選抜育成した品種であり、昭和62年に品種登録されている。果実の形状は円筒形の「俵」のようで、表面に生える毛はヘイワードよりも長くて密集しているのが特徴。
そんな香緑を撫でると、ゴワゴワの硬い毛が果実をしっかりと守っていることがうかがえる。その上、水道水ですすいでもペッペと振れば一気に乾くあたりが、やはりカピバラっぽい。
それよりなにより、果物は皮ごと食べるのがわたしのモットー。さすがにパイナップルやバナナの皮は食べないが、食べられそうな皮はなんでも食べるのが、自然の恵みに対する礼儀というもの。
そこでわたしは、このカピバラのようなキウイを、どうにかして皮ごと食べようと画策した。
「キウイの毛が舌にささるから、皮ごと食べちゃダメだよ!」
そんな軟弱者の意見が聞こえてきそうである。たしかに毛は邪魔だが、皮は非常に薄くてデリケートにできている。例えるならば、桃やブドウの皮と同じくらいの薄さであり、食べられないはずがない。
そこで早速ネット検索してみると、出るわ出るわ"皮ごと食べる信者"の情報が。なかでも、毛の除去方法で面白いやり方が目に留まった。それは、アルミホイルでキウイの表面を擦(こす)り、柔毛を落とす方法だった。
(なるほど!丸めたアルミホイルでキウイの表面をゴシゴシやれば、表面の毛をこそぐことができるのか)
調理器具の乏しいわが家では、なにかで代用させることが重要となる。そのため、アルミホイルを丸めることで新たな器具を作り出せるならば、こちらとしては非常に助かるわけだ。
わたしは早速、キウイの表面をゴシゴシやってみた。キウイの見た目に変化はないが、アルミホイルの方には茶色の柔毛がびっしりとこびりついている。何度か水洗いしながら擦り続けると、今度は皮が破れてしまった。
(やりすぎるとダメなんだな・・)
このあたりの力加減を調整しながら、次々とキウイを磨き上げるわたし。そして次々と口へ放り込み、毛も皮も身もキウイのすべてをしっかりと受け止めながら、わたしは己が覚醒するのを感じた。
(・・いける、これからはキウイ一本でいける!!)
これまでは、キウイを半分にカットしてスプーンですくわなければ食べられなかったが、これからはアルミホイルさえあればキウイを食べられる。
こうなれば何個、いや、何十個でもキウイを買うことができる。みずみずしくて甘酸っぱくて、ビタミンC・E、葉酸、カリウム、クエン酸、ペクチン、食物繊維などなど豊富な栄養素の宝庫であるキウイを、避ける理由などないわけで。
これからは思う存分、丸ごとかぶりつけばいいのだから——!!!
*
こうしてわたしは、キウイを15個丸のみしたのである。
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