このままでは私は、どこの馬の骨かも分からぬ素性が知れない者になってしまう

Pocket

 

レジで財布を出す友人を見て、ふと気づいたことがある——わたしは、財布はおろか身分証明書すら持っていない・・と。常に手ぶらで出掛けるわたしは、財布を持っていないため現金オンリーの店からは入店前に「お断り」を突きつけられているが、現金以前に身分を証明できるものが何もない。

過去の話だが、現金またはICカードで運賃を支払う地方バスに乗った際に、てっきりICカード=Suica的なものだと思っていたら、その都市独自のICカードしか使えない・・というピンチに遭遇したことがある。もちろん、現金など一円たりとも所持していないし、わたしが下車する時点で乗客はゼロ。銀行口座には多少のカネは入っているが、田舎の路線バスの中からどうやって引き出すことができようか——というわけで、八方塞がりの“無賃乗車犯“が誕生しようとしていた。

 

そこでわたしは、唯一の身分証明ができそうなスマホを取り出すと、バスの運転手に向かって画面を見せた。そこにはFacebookのプロフィール画面が表示されており、氏名と顔写真、職業、居住地などが確認できる。無論、これが偽物ならば元も子もないが、現状これしか“わたし”を証明できるものがないのだから仕方がない。

すると運転手は、自らの財布から500円玉をつまみ出すとわたしに差し出したのだ。どうやら、外国人観光客がクレカで払えると思ってノーキャッシュで乗車したり、現金はあるが一万円札しか持っておらず両替できなかったり、はたまた両替機が新500円玉に対応しておらず硬貨はあれど支払えなかったりするケースが多発しているため、運賃回収箱をアップデートできない現状からも、運転手が旧500円玉を何枚か用意している模様。

(だったら、運転手が支払ってくれた運賃をPayPayで送金する・・じゃダメなのかな )

PayPayの加盟店であれば、送金にて商品代金を授受する行為は規約違反とされているが、個人アカウント同士ならば問題ないはず。であれば、運転手から借りた500円をPayPayなどの電子マネーに付帯されている送金機能で送り返せば、その場で完結できるのではなかろうか・・などと思いながらも、次回乗車した際に別の運転手に500円玉を預けることにしたのであった。

 

——と、当時を思い出しつつ「もしも身分証明が必要な場合、マジでわたしはどうしたらいいんだろう」と考えた。車を運転していた頃は運転免許証を所持していたが、今となってはどこかへ大切にしまい込んでいるし、身分証明証の代名詞であるマイナンバーカードは未発行。健康保険証も社労士票も自宅で保管しているため、外出時のわたしはどこの馬の骨かも分からぬ不審人物なのだ。

一応、氏名と顔写真に加えて職業や居住地、さらには出身校なども表示されるFacebookが、スマホ上での身分証明の有力候補だが、アカウント自体が偽物である可能性も否定できないわけで、そうなると退路を断たれてしまう。だからこそ日本政府は、Apple社にすり寄ってiPhoneのウォレット機能にマイナンバーカードをねじ込むことにしたのだから——。

 

グローバルな情報や統計データ、ランキングなどを発信しているセカイハブによると、2024年8月時点の「日本と世界のスマホOSシェア比較」にて、日本ではiPhone(iOS)が59.17%、Androidが40.60%であるのに対して、世界で見るとAndroidが71.70%、iPhone(iOS)は27.1%と、大きな差が出る結果となった。

とはいえ、iPhoneユーザーは日本国内において着実に減っており、これは人口減少と比例する部分もあるだろうが、Samsung(サムスン)やXiaomi(シャオミ)などの新興勢力の追い上げにも着目したいところ。ちなみに世界規模で見ると、アップルとサムスンのシェア率はほぼ同じで、シャオミがそれに続く順位となっており、いかに日本という国がApple信者の宝庫なのかが分かる。

 

かくいうわたしもiPhoneユーザーなわけで、今春、マイナンバーカード機能が搭載されたならば、これまで渋っていたカードを発行手続きを進めてやってもいいかなぁ・・などと日和った考えを持っているのだが、いずれにせよ「わたしが何者であるか」を証明するには、公的機関が発行した物理的な証明書が必要なのだ。

仮に今日、警察官から職務質問をされたとしても、わたしは自分を証明することができない。そして、このふてぶてしい面構えに加えて世の中を舐めきった態度からも、「署までご同行願います」ルートが確定するのは想像に難くない。

(そういえば、パスポートの期限ていつまでだったっけ・・)

運転免許証以外の唯一の公的証明書である「パスポート」の存在を思い出したわたしは、とりあえず、自分が何者なのかを証明するだけでなく海外逃亡の可能性を視野に入れて、「パスポートの期限だけは確認しておこう」と、密かに脳内メモに刻みつつレジの順番を待つのであった。

 

Illustrated by 希鳳

Pocket