(これって結局、どっちを選ぶべきなんだろう・・・)
冷え切った身体を震わせながら、悪夢にうなされて目を覚ましたわたしは、果たしてどちらが自分自身にとって相応しい“寝床“なのかを考えた。
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先日、Tシャツにパーカーを羽織った状態で分厚い羽毛布団にくるまって寝ていたわたしは、あまりの暑さに目を覚ました。そして布団を蹴り飛ばして冷気に身を晒したところ、10秒も経たないうちに耐えがたい寒さに襲われたのだ。
真冬のこの時期にぬくぬくと眠ることができたら、それはまさに至福の時である。だが、ビショビショに寝汗をかいてまで睡眠を維持することはできないわけで、その結果、汗により体温が奪われ強制的に目を覚ましたわたしは、「暑すぎていいことなんてないんだ」と、寝ぼけまなこで確信した。
そういえば、よくよく考えてみると個人的には足先が冷えているほうが安眠できるし、部位は真逆だが“頭寒足熱“という言葉があるくらい、部分的に冷えているほうが血流を促しリラックスした状態が保てるのだ。
——ということは、多少寒いくらいのほうが快眠に繋がるのかもしれない。
極端な例ではあるが、「雪山で遭難すると眠くなり、そこで寝てしまうと命を落とすことになる」という原理を応用して、寒さによって眠気を誘発することで、わたしにとって理想的な睡眠を手に入れられるのではなかろうか・・と考えた。
そして今日、室内に居ながらにして寒い状態に身を置くべく、わたしはソファに向かってゴロンと寝転がった。本当は床の上が最も寒い空間なのだが、さすがにフローリングで横になるには“腰が抱える爆弾のリスク“が大きすぎるため、床よりやや上空にある(とはいえ、しっかりと冷え切った高さにある)ソファを選んだのだ。
普段からベッドとソファを交互に寝床として使っているため、ソファで寝ることに特別な感情や意気込みはない。だが今日は、いつもより薄着かつ素足を晒して眠ってみることにした。
——少し寒いくらいのほうが、きっと深い眠りに就けるだろう。もう二度と目を覚まさないくらいの、深い深い眠りの深淵へと落ちていけばいい。
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力強い朝の光がブラインドの隙間から差し込む頃、わたしは静かに目を開いた。いや・・正確には「両目からは大粒の涙がこぼれ、嗚咽するかの如く喉を詰まらせながら目を覚ました」のである。
そう、わたしは悪夢にうなされていたのだ。手足は冷たく硬直し、鼻の頭までキンキンに冷えた状態で、それでいて耳の中へ涙が流れ込むほどむせび泣いていたのだ。
夢の中でわたしは、何者かに右手の人さし指と中指と薬指を切り落とされた。「すぐに指をくっつけなければ、神経が繋がらなくなる!」と半狂乱で泣き叫ぶわたしを尻目に、何者かは急ぐ様子もなく放置を続けた。
そこでわたしは、痛みに耐えながら切り落とされた指と指の付け根とをくっつけてみた。しかし、焦りと緊張のせいで人さし指が変な方向にくっついてしまい、どうにかして直したいが今ここで指を離したらもう二度とくっつかない気がして、いったいどうしたらいいのか分からずに大号泣していた。
(ようやく、ピアノを正しく弾けるようになってきたのに、指を三本も失ったらもう弾けないじゃないか。なんでわたしがこんな仕打ちを受けなければならないんだ、なんでわたしが・・)
悔しくて悲しくて、それでも自力ではどうにもならない絶望的な状況に、ただただ天を仰ぎひたすら涙を流すだけだった。なんでこんなことになったんだ——。
目覚ましのアラームが自動で止まるほどの寝坊をしたわたしは、目の周りをぐっしょりと濡らした状態でまぶたを開けた。スマホを手繰り寄せると・・アラームの時刻から二時間が経過していた。
そして右手の指は・・・当たり前だがちゃんとくっついていた。バカげた話ではあるが、その事実にまた別の涙が流れたのであった。
この悪夢を見たのは寒さのせいなのか、それとも現実的に悲しいことがあったからなのかは分からないが、結果として「二時間も寝坊するほど深い眠りにつけたこと」は幸せだった。
それでも、耳や髪の毛を濡らすほどの涙を流しながら目を覚ます朝は、できればもう二度と迎えたくはない。となると、体が冷えた状態で眠るのがわたしにとってベストな寝方とはいえないわけで、やはりベッドで寝汗のほうがマシということなのか——。
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寝床ひとつとっても、なかなかうまい具合にはいかない世の中である。
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