美容室へ行ってから一か月が経過した頃、前髪が邪魔になってきたので自らの手でカットを行った翌朝、頭髪が謀反を起こしてスーパーサイヤ人になったわたし。
あの時点で「どんなにちょっとしたことでも、髪の毛についてはプロの手に委ねよう」と決めたはずだったが、またもや抑えきれない好奇心というか欲望に負けた結果、禁断の果実——ヘアカラーに手を出してしまった。
ヘアカラーは3週間もすれば完全に色が抜けてしまう。そのため、単なる下品な金髪と化した自分に耐えきれず、ふと「市販のカラー剤で、次回の予約までの間をつなぐことはできないだろうか?」と思い立ったのだ。
すぐさまネットで調べたところ、あるわあるわたくさんのヘアカラー剤が出てくるではないか。中でも目を引いたのは、「まるでトリートメントしたかのような髪艶に!」と、髪の毛が痛むどころか潤いを与える用途としても使えそうな商品がある——よし、これを使ってみよう。
物は試しということで、四千円近くする高価なヘアカラー剤を購入したわたしは、商品が到着するや否やすぐさま自宅でセルフカラーリングに挑戦した。
そもそも、自らの髪の毛を染めたことなどあっただろうか。学生の頃にやったかもしれないが、そんな記憶も残っていないことから、もしかするとこれが初体験となる可能性も。
(まぁいい・・どうせすぐに美容室へ行くし、それまでの時間稼ぎだ)
こうして、人生初の(と思われる)セルフヘアカラーを行ったのである。
*
「どうしたの、寝坊?」
突如、友人からそんなことを聞かれたわたしは、思わず眉をひそめた。寝坊どころか一睡もしていないのに、なぜ急にそんなことを聞くのだろうか——?
「髪の毛、寝ぐせがついたままでボサボサだから」
その発言に驚いてすぐさま鏡を覗いたところ・・なんだこりゃ?!たしかに、髪の毛がボサボサに乱れているではないか!!
どれほど遅刻しようが出掛ける前には必ずシャワーを浴びるため、寝ぐせが残っていることなどあり得ない。それなのに、鏡に映るわたしの頭はまさに寝起き状態である。いったいなぜ——。
このように取っ散らかった原因は、髪の毛の極度なダメージによるものだった。ショートヘアであるにもかかわらず、指が通らないほどギシギシに傷んでおり、ほんの少しの摩擦ですら髪の毛のうねりを誘発してしまう。
ここまでのダメージを負わせた犯人は、間違いなくあのカラー剤である。なにが「トリートメントしたかのようなツヤツヤな髪の毛に」だ!使い古した竹ぼうきのごとく荒廃したパサつきじゃねーか!!
すぐさま美容室の予約を入れたわたしは、プロの手で前髪を整え、プロの元でカラーリングを施してもらった。それに加えて、言われてみれば当たり前の事実を説教された。
「市販で売っているカラー剤にとって、最も困るクレームは”色が入らないこと”だから、誰でもある程度は染まるようにできている。言い換えれば、脱色力が強い分髪の毛は傷みやすい。そして、使われている成分も(コストを抑えるべく)いいものではないから、髪の毛にダメージがあるのは当然だよ」
なるどほど・・市販されている以上は、誰がどう使ってもある程度の効果を得られなければ売り上げは立たない。だからこそ、染毛という目的に焦点を絞っているのだ。
では、美容室で使っているカラー剤はどこがどう違うのかを尋ねたところ、
「ぜんぜん違うよ(笑)。そもそも使っている薬剤が違うし、なにより僕たちはお客さんの髪質に合うようにその場で薬剤を調合する。そして、カラー剤の落とし方やアフターケアの仕方も違うから、髪の毛のダメージを最小限に抑えることができる」
・・そうか、だからこそ国家資格なのか。
プロの目で見てプロの手で作られたカラー剤を使い、プロの技術をもって塗布するヘアカラーだからこそ、均一に染まるし髪の毛も傷まない。それを、ちょっと安く済ませようと市販のカラー剤なんぞに手を出した結果、満足のいく仕上がりになるわけがない——寝言は寝て言え!
*
こうして、ツヤツヤの髪の毛を取り戻したわたしは、帰宅と同時に洗面所へ突撃し、先日買ったばかりのカラー剤とシャワーキャップを掴むと、ゴミ箱に向かってダイレクトボレーを放った。
もう二度と市販のカラー剤で髪の毛を染めることはないし、むしろ染めてはならない。市販の商品というのは、誰もがある程度の効果を実感できるレベルであるため、それすなわち”確実に低レベルを維持すること”なのだ。
(なんか、平等をはき違えた民主主義の成れの果て・・みたいな決め台詞だな)





















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