発見というのはいつだって、偶然から導き出されるもの。加えて、怠惰による幸運(ラッキー)を味方につけたわたしは、ついに圧倒的な最適解を得たのである——あぁ、本当に長かった。これでようやく、普通の生活を手に入れることができるのか。
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我が家のエアコンは壁掛けタイプであるにもかかわらず、壁に埋まっている。理由は簡単だ、このマンションを建てる際に室内の景観を優先するべく・・いや、見栄を優先するべくエアコンを壁の中に収めたからだ。
どうして「見栄」なのかというと、エアコンがむき出しになっているよりも隠れていたほうがスタイリッシュなのは事実で、それを実行したのはいい。ではなぜ、埋め込みタイプのエアコンを使わなかったのか——予算が足りなかったからにほかならない。
もしかすると「埋め込み式のエアコン設置に必要な空間を、壁の内部に確保できなかったから」とか、それなりに正当な理由があるのかもしれない。であれば、わざわざ壁に格納庫など掘らずに外へ設置すればいいだけのこと。それをあくまで埋め込んだということは、やはり見栄を張ったとしか考えられないわけで。
このような事情から、本来ならば壁に設置するべきタイプのエアコンを、無理やり壁内部へ押し込んで稼働させるのだからまともに機能するはずもない。
そんな哀れなエアコンは、自らが押し込まれた小部屋の内部を必死に暖めたり冷やしたりしているのだが、残念ながら我が家の温度はさほど変わらない——そりゃそうだ、センサーが設定温度を感知すればそれ以上にはならないため、格納庫が設定温度に達すればエアコンは小休止となる。その結果、夏は暑くて冬は寒い「拷問部屋」が完成するのだ。
こうなるともはや、フィルターを掃除するとかシーリングファンで空気を回すとか、そんな小手先の対処では太刀打ちできない。せめてもの工夫として、送風口を水平にして天井付近へ風を送り、それをシーリングファンで叩き落とす・・という暫定的な「その場しのぎ」を施し、はや十年が経過した。
そんなわたしの日常に今日、とんでもない転機が訪れた。
ただでさえ極寒の我が家をこれ以上シベリアにしないためにも、マメにエアコンのフィルターを掃除しているわたしは、まだまだ綺麗なフィルターを外すとせっせと水洗いした。
(これから出かけるし、帰宅するまでには乾いているだろう)
小一時間ほど外出する予定があったわたしは、洗面台にフィルターを立てかけると家を出た。エアコンは付けっぱなしだが、まぁ長時間家を空けるわけでもないし、問題ないだろう。
この時点ではなんの目論見も野望も抱いていなかったのだが、「フィルターを乾かして元通りにセットする」という行為を後回しにしたこと・・すなわち、作業を完了させることなく放置したことで、帰宅と同時にまさかの最適解を手に入れることとなったのだ。
(・・あれ?なんでこんなにあったかいんだ)
玄関を開けると同時に、半袖でもイケるんじゃないかと思うほどの暖かさに迎えられたわたしは、一瞬なにが起きているのか理解できなかった。
エアコンの設定温度を35度にしたとか?——いや、それはない。暖房器具で室内を温める・・という希望はとうの昔に捨てている。ではなぜ、温度や風量をいじっていないのにこんなにも室内が暖められているんだ。
半信半疑というか、恐る恐る部屋に踏み込んでエアコンを見上げたところ——あぁ、そういうことか。
洗ったばかりのフィルターを自然乾燥させるべく放置したわたしは、エアコンのフタを開けっ放しにして出掛けた。その結果、全開となったフタが帽子のツバの役割を果たし、エアコンから吹き出す温風を下方へと跳ね返していたのだ。
そう、これまでは自身が収まる格納庫と天井ばかりを暖めていた哀れで役立たずなエアコンが、ここへきて初めて床を暖めることに成功したのである。苦節十年、ようやくエアコン本来の能力を発揮したのだ!!
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こうして我が家のエアコンは、正面のフタ全開で今日も必死に温風を吐き出すのであった。




















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