一概には言えないが、全般的に男性よりも女性のほうがコミュニケーション能力が高いのと、職業でいうと"公務員歴が長い中高年男性"が、もっともコミュニケーション力に欠けるように感じる今日この頃。
後者に当てはまる"コミュ力の高いオジサマ方"には失礼な話ではあるが、役所とやり取りが多い社労士の立場からすると、性別問わず若者はドア全開で耳を傾けてくれるが、中高年の職員は初めからドアを半分閉じた状態で、「宗教の勧誘ならばお断りします」といわんばかりの態度で挑んでくるので埒が明かない。なんというか、頭ごなしにめんどくさがっているというか、できれば自分では対応をしたくないという雰囲気がプンプンするため、要件を伝える前からこちらも疲れてしまうのだ。
どうせ、二度と会うことも話すこともないであろう無機質な関係性。しかも仕事上の話をするだけなのに、なぜこんなにも嫌な思いをさせられなければならないのか——。
(こんなことならば、ニンゲンではなくAIとやり取りするほうがよっぽど気持ちよく会話ができるし、解決までの時間短縮も図れるだろう。あぁ、マジで残念な相手に当たってしまった・・・)
とある質問をしたかっただけなのに、なぜこんなネガティブな気持ちにさせられるのか納得がいかない。これも相手がニンゲンだからなのだが、この人はいつもこんな嫌味な態度で生活しているのだろうか。
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過去に、準公務員の立場で仕事をしていたわたしは、一般企業にはない役所ならではの「公務員あるある」について思い出していた。役所は公的な機関であり、公平・平等をモットーとしている。それゆえに、理解はできるが納得しがたい注意を受けたことがあるのだ。
「来庁者に等しくサービスを提供するのが役所の務めであり、あなたが特別な対応をすれば他の職員との差が生まれることで、サービスの平等性が保たれなくなることを理解してほしい」
・・この言葉には考えさせられた。確かに、わたしが自分のモノサシを基準に専門的な助言を行うことで、他の職員とは異なる対応となるのは目に見えている。「だったら、職員全員がそこまでレベルアップすればいい」と言うのは簡単だが、彼ら彼女らは数年に一度の間隔で異動があることや、こなすべき業務が多岐にわたるため、一つの分野を専門的に追及することは難しいのだ。
おまけにわたしは"専門家"として役所内に常駐しているわけで、専門的な助言を行うのが任務でもある。だからこそ、一般職員よりも一つ上のレベルの対応を心がけていたのだが、それが逆に仇となった模様。
無論、これはどちらが正しいという話ではない。なぜなら、多角的な視点からすると公平・平等というのは"レベルを下げる行為"にほかならないからだ。
どこかで優先順位をつけて、差のある対応をしなければ多くのヒトを救うことはできないが、その優先順位というのも公平・平等に判断しなければならないとなると、判断する側の能力に左右される部分が出てくる。さらに、多くの人間に恩恵を行き渡らせるためには、ある程度の幅を持たせた線引きが必要となるため、サービスは平坦であるにもかかわらず、受給する側に大きな差が出ることも。
とにかく「大勢の人間に公的サービスが行き渡るように」というマインドを優先した結果、レベルを下げたサービスをより多くの人に届ける結末となるのは必然なのだ。
だからといって、レベルの高いサービスを提供しようとすれば、役所側に相当な負担を強いることとなる。そこまでの知識や経験、さらには対応力の向上を図るには、職員自身の能力に加えてかなりの時間と費用を費やすこととなるからだ。
こういったことからも、その分野の専門家である士業者が公的機関とタッグを組んで、専門的な助言や対応を行う仕組みができたのである。
・・まぁ過去の話は置いといて、今日の電話の相手は声質からして50代男性で、わたしが社労士であることを名乗っても変化がみられないことからも、ベテランの年金事務所職員だと思われる。もしもそうじゃなかったとすると、それはそれでなかなかの強者といえるが、とりあえず淡々と要件を伝えたのだ。
「いまの話はこちらの管轄の事業所ですか?」
これは毎度行われる儀式のような問答なのだが、ここで「ノー」と答えれば電話を切られるため、「イエス」が必須の答えとなる。もちろん、向こうもボランティアで電話対応しているわけはないので、管轄の事業所についての質問以外は受け付けないのは当然であり、こちらも十分承知している。
だがわたしは、「この質問はすべての事業所に共通する内容でもあるが、とりあえずはここの管轄の会社が発端の案件だからイエスでいいよな」と考えながら答えたため、相手はその"わずかな時間差"について訝しく思ったのだ。そして、
「ならば、その事業所の整理記号と番号を教えてください」
と、意地悪をぶつけてきたのである。
その時わたしは駅に向かって歩いていたため、該当する事業所の情報は手元になかった。会社名くらいはいえるが、記号番号まではさすがに覚えていいないため、その旨を伝えたところ、
「それではお答えできませんね」
と、電話を切ろうとしたのだ。いやいや、さすがにそれは意地悪が過ぎるだろう——。
これまで何十回・・いや、何百回と年金事務所に問い合わせをしてきたが、一般論に近い質問をするのに記号番号を求められたことは一度もない。もちろん、具体的な質問ならば事業所の詳細から被保険者の情報まで、すべてを伝えた上で話を進めることになるが、今回の質問はそういう類のものではないため、そこまでの準備はしていなかったのだ。
たったこれだけのことではあるが、「管轄の事業所ですか?」という彼の問いに対する答えに微妙な間があったことで、「こいつは怪しい、ウチの管轄内じゃなさそうだからさっさと退けよう」と判断したのは明白。そこであえて記号番号を聞き出すことで、本当に管轄内の事業所なのかどうかを確認しようとしたわけだ。
年金事務所の対応としては正しいのかもしれないが、こちらからするとさすがに意地悪に感じてしまう。ましてや、一般人ではなく年金事務所寄りの仕事を業とする社労士からの質問なのに、そこまで疑心暗鬼になる必要があるのだろうか——。
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たった一つの質問をするだけのことで、ニンゲンならではの意地悪によりモヤモヤしながら一日を過ごすこととなった、とある社労士の愚痴である。
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