今しがた、依頼のあった原稿を書き上げた。
わたしはタイトルにこだわる人間なので、今回も絶妙なタイトルをひねり出してやった。
自分のブログならばどんなタイトルでも構わないが、さすがに仕事で受けた原稿に対してふざけたタイトルを付けてしまうと、わたしの人間性が疑われる可能性がある。
これなど最高傑作だ。何一つ嘘がないのだから。
しかしこれだって、ヨーコが承諾してくれなければボツになったタイトル。それくらい、タイトルはシビアでナーバスで、一筋縄にはいかないものなのだ。
今回は金をもらう記事ゆえ、そこそこまともなタイトルにした。だがそこはどうしても「ひねり」を加えなければ成り立たない。
というわけで、とあるアニメのタイトルと掛け合わせた、シャレたタイトルを編み出した。
念のため、アニメに疎そうな中年の編集長に聞いてみた。
「このタイトル、××と掛けてあるの分かりますよね?」
すると彼はこう答えた。
「え?全然わからない」
(マズイ。これじゃただの奇をてらったタイトルだと思われる・・・)
何ごとも美しくなければならない。
「いかにも!」というタイトルは、正直ダサい。そこに何かが掛け合わさっているからこそ、そのわざとらしさがオシャレになる。
もちろん、そのアニメを知っている人からすれば一目瞭然のタイトルだが、知らない人、とくにアニメを見ない人や世代にとったら意味不明だろう。
そこでわたしは編集長に交渉した。
「この記事のサムネ、わたしに用意させてください」
*
サムネといえば美大卒の友人の登場だ。とくにアニメ系のタッチは抜群に上手い。
時間がないのですぐさま彼女へメッセージを送る。
「オッケーです。いつまで?」
「いますぐ!大至急!」
「え???」
そりゃそうだ。平日の昼間など仕事中に決まっている。
それでもわたしは大至急、サムネイルとなるイラストが必要なのだ。
無理を承知で友人を口説く。
「わ、わかりました。やってみます」
大体、わたしからの頼み事を断れるわけがない。後でどんな目にあうか、考えただけで恐ろしい。
そこで彼女は仕事を中断し、早速iPadを開いて作業に取り掛かったのだ。
実はこの裏で、わたしは友人の弁護士に確認していたことがある。
それは、アニメの主人公を崩して描いた場合、著作権侵害にあたるかどうかということだ。
何枚もサンプルとなるイラストや画像を送るが、どれも全て「NG」だった。
「じゃあ、後ろ姿はどうなの?」
「一概には言えないけど、それならいいんじゃない」
ここでようやく、落としどころへたどり着いた。
ーーわたしのタイトルを生かすも殺すもサムネにかかっている。主人公の後ろ姿を描いてもらうしか、方法はない。
こうして、イラストが描ける友人へと繋がったのだ。
*
「記事の内容がこうだから、これとこれもどうにかねじ込んで」
「この部分、小さくていいからここにこれも入れて」
何度か修正を重ねた後に、ようやくサムネが完成した。
わたしのイメージ通り、かつ、著作権問題もクリアできるレベルのイラストだ。
ここまでの所要時間およそ1時間。
わたしは彼女へ、自分が受け取る原稿のギャラの半額を支払った。
「こんなにもらっていいんですか?!」
彼女は驚いていたが、当たり前だ。これだけの短時間でわたしが満足する成果物を出してきたのだから、ギャラに色を付けるのも当然のこと。
普通なら数時間はかかるだろうし、自分の仕事を差し置いてまで優先してもらったことは、何にも代えがたい価値がある。
それを見ていた別の友人がボソッと、
「記事かサムネがボツになったらどうすんの?」
と漏らした。
「別に構わないよ。アタシのオーダーに応えてくれた彼女に支払う対価だから、それが使われようが使われまいが、どうでもいい」
さらに付け加えるならば、わたしが提出する原稿はわたしの分身であり、そこに添えるサムネも同じ価値と意味を持つ。
つまり、ダサいサムネを添えたなら、わたしは「ダサい」ということだ。
そんな結果になるくらいなら、最高にシャレた作品を叩きつけてやりたい。その後、それが日の目を見ようが見まいがどうでもいい。
むしろ、この素晴らしさが分からないならそれで結構。所詮、自己満足の世界だからだ。
*
職務内容にもよるが、一般企業にありがちな
「長時間労働をしたほうが、給与が上がる」
という悪しき慣習は、今回の出来事からしても明らかに、間違っていることが分かる。
就業時間内はその場所に張りついていなければならない、というくだらなさ。
「終わったらさっさと帰っていいよ」と言われれば、仕事が捗るだけでなくより良いアイディアも生まれるだろう。
さらにその繰り返しが、労働者本人の能力も成長させる。
ましてや短時間で、あんな素晴らしいイラストを描き上げてもらえれば、それは成果物の対価として報酬が跳ね上がるのは当然。
出来上がったイラストを見た弁護士が一言、こうつぶやいた。
「スゴ、天才」
Illustrated by オリカ
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