港区のヨーコ・ヨコハバ・ヨコヅナ

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近所にクマに似た友人が住んでいる。

 

彼女は先週、SNSで歴代の運転免許証を披露した。

正確には覚えていないが、20年くらい前だろうか。ちょっとヤンキーっぽさの残る、気の強そうな美女が写っていた。

 

その後もしばらく美人路線をたどるが、後半に差し掛かると

「ん?」

という疑問符が付きそうな写真が登場。

 

直近の写真など、立派な女子プロレスラーに成長している。

しかし女性はこんなにも変わるものなのか、という見事なビフォーアフターを示す証明写真に、しばし見入る。

 

あまりの変貌ぶりに驚かされたこともあり、過去の「美人ヤンキー時代」の彼女が頭の片すみにこびりついてしまったようだ。

(あれならモテただろうな。イイ女って感じだもんな)

 

そんな下衆(げす)い思考が、本日の悲劇を巻き起こした。

 

 

近所に住むヨーコ(仮名)は、料理上手でクマのようなフォルムの女性。

 

お腹を空かせたわたしに手作りパンを焼いてくれたり、トッポッキやキンパ、アヒージョ、ジビエシチューなど、オールジャンルで完璧な手料理を作っては届けてくれる。

 

わたしですら「預ける」という使い方をしたことのない、マンションに設置された宅配ボックス。あれを、宅配業者以外では彼女が最も使いこなしているだろう。

 

先述したが、ヨーコはクマのようなフォルムのため、そう簡単には間違えない。

なんせクマのような女性を街中で見かけることなど、そうそうないからだ。

 

このように、「ヨーコのフォルムは特別」と高を括(くく)っていたことと、数日前に見た彼女の若かりし頃の写真とが、事件の発端となる。

 

最寄り駅を歩いていると、ヨーコがこちらへ向かってくるのが見えた。しかしケータイをいじりながら歩いているため、熱い視線を送るわたしの存在に気づかない。

仕方なくわたしはヨーコのほうへと歩を進める。

 

(おや、今日はいい感じでメイクしてるじゃん)

 

珍しくメイクをしている。しかも過去の写真にあったような、ちょっとヤンキーチックなネコ目メイクで洒落っ気づいている。

 

(これからお出かけっぽいな。いっちょ驚かしてやるか)

 

わたしはそそくさとヨーコに近寄ると、勢いよく彼女の頭をひっぱたきながら、

「おーーーっす!!」

と声をかけた。

 

目をまん丸くしたヨーコはビクッと後ずさりし、わたしの顔を見る。

 

そしてわたしの顔を見ているはずのヨーコが、よく見るとヨーコではないと気づくのに時間はかからなかった。

 

(・・・え、誰ですかあなた?)

 

むしろわたしがビックリだ。どこをどう見てもヨーコのはずが、目の前で見つめ合うと別人なのだから。

と言っても、いま見ている顔と数秒前の顔に違いはなく、10年前くらいのヨーコと同じ顔をしている。

そう、この部分に勘違いはないのだ。

 

(しまった、昔のヨーコと見間違えたのか!!)

 

いま、わたしの目にはひどい飛蚊症が現れている。さらに網膜からの出血のせいで視界が鮮明ではない。

そのせいで本物のヨーコと、ヨーコと似て非なる人とを見間違えるという、凡ミスを犯したのだ。

 

怯えつつも怒りを隠せない表情の非ヨーコは、スタスタとエスカレーターに向かう。わたしはすぐさま謝罪をするが、非ヨーコは見向きもしない。

ーーマズイ。このままではこの女性に不快な思いをさせただけでなく、わたしがかなり失礼で頭のおかしいヤツだと思われてしまう。

 

すぐさまケータイから本物のヨーコの画像を探し出し、非ヨーコの前に歩み出るとそれを見せた。

「この辺りに住んでる友人で、あなたにすごく似てるんです!わたし、目が悪くて見間違えちゃってごめんなさい!」

とにかくひたすら謝った。非ヨーコはしばらく無視していたが、そのうち「もういいですよ」と言ってくれた。

 

 

駅ですれ違うということは、今後もすれ違う可能性が高い。

ならば今度は本物のヨーコと、ヨーコの過去の写真を持参した上で、改めて彼女に謝罪しよう。

 

ーーアレを見ればさすがの彼女も納得してくれるはずだ。

 

 

Illustrated by オリカ

 

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