その昔、美容大国である韓国にて、眉毛とアイラインのアートメイクを行ったわたし。ところが運悪く、局所麻酔が品切れということで、施術をやめるか麻酔なしで彫るかの、究極の選択を迫られた。
とはいえ、わざわざ韓国までやって来たのに、痛みごときで尻込みするようでは大和魂に傷がつく。そこでわたしは、麻酔なしでアートメイクに挑むことを決めたのである。
結論からいうと、意識が遠のきそうになるも、なんとか耐え忍んだ。
とくに、アイラインのほうはとんでもない痛みだった。まつ毛の間やキワをガリガリされるわけだが、「こんなの、拷問以外にありえないだろう」というくらい、あちらの世界が見え隠れする、恐怖と絶望の数十分間を味わうこととなった。
もちろん泣きたい気分ではあったが、人前で涙を流すほどの感情の乱れはなかったため、自分自身では泣いている意識はなかった。しかしあまりの痛みに、勝手に涙がこぼれてしまうのだ。わたし以上に施術者の女性が困っていたが、こちらも涙を止める術がないため、ただただ静かに涙を流しながら時が経つのを祈っていた。
・・という話を、今回の施術者である友人に話したところ、
「えー!麻酔なしでやるなんて、信じられないですよぉ」
と、当たり前のコメントをもらった。そりゃそうだ、眉毛ならまだしも、アイラインを入れるのは目元のため、かなり繊細で痛みに敏感な部位である。そんなところへ麻酔なしで針を突き刺すなど、信じられないに決まっている。
だが今回、もう一つの「信じられない」理由を知ることとなった。
かつて韓国で入れたアイラインのリタッチとして、友人の勤めるクリニックで施術を受けることにしたわたし。今回はちゃんと麻酔を使用しての施術となったが、いかんせん麻酔との相性が悪いわたしは、ヒトより効きにくい上に麻酔効果が切れるのも早い。そのため、施術の途中で痛みが現れはじめたのだ。
とはいえ、かつての経験からも麻酔なしでやれることは確認済みである。よって、多少の痛みは我慢できるというより、気にならない程度の痛み、いや、刺激に感じたのだ。大して痛くもないわけで、このまま乗り切ってしまおう・・そう思っていたところ、
「麻酔、切れてますか?」
施術中の友人が、突如尋ねてきたのである。――なぜわかったんだ?痛そうな表情などしていないはず、それなのにどうして気が付いたんだ??
やむをえず、正直に麻酔が切れていることを告げると、追加で麻酔を塗布された。そしてこう説明してくれたのだ。
「涙が出るとインクが落ちちゃうので、麻酔したほうがいいんですよ」
なるほど!!この回答には驚くとともに深く納得した。皮膚に傷をつけて、そこへ色素を流し込むことで着色するのが、アートメイクやタトゥーの仕組みである。そのため、涙を流せば、せっかく注入した色素が排出されてしまうのだ。
ここでわたしは、ふと15年前を思い出した。あの時、なぜあんなにも長時間にわたり施術が続いたのか?・・その原因は「涙」だ。
麻酔なしで挑んだわたしは、ポロポロ涙を流しながら痛みに耐えたわけで、施術中ずっと、目元は涙で濡れていた。そのため、インクを注入しても涙で排出されてしまい、何度も何度も入れ直したのではなかろうか――。
これですべての謎が解けた。特段、謎に思っていたわけではないが、言われてみればその通りである。
痛みに耐えられれば施術OKとなるのは、眉毛だけなのだ。どれだけ涙を流そうが、眉毛が濡れることはないため、注入した色素に影響はない。
その点、アイラインは麻酔が必須である。もしも、どんなに痛かろうが涙をコントロールできる人間がいるならば別だが、一般的には自然と涙がこぼれるはず。となれば、せっかくの施術が無駄になるわけで、絶対に麻酔を使うべきなのだ。
(あぁ、なんだかスッキリした・・)
もはや痛みに耐えるなどという、無意味なやせ我慢はしない。堂々と、局所麻酔を塗布してもらうのだ!
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