電車に乗っていて感じることは、太ももが細い人がうらやましいということ。
足が細くてスラっとした女性はみな、優雅に足を組み、はばを取らずに着座している。
とくに、上の足が下へ垂れ下がり、くたっとしおらしくぶら下がっている、あの儚い感じへの憧れを隠せない。
もし私があれを再現すると、ユニコーンの角か、わざと足で通せんぼしてるかのように正面に突き出てしまい、足が下へ垂れ下がらないのだ。
なぜそうなるのか、それは私の足が太いからだ。
私が足を組むには、両手で片足を持ちあげて逆の足に乗せてやらなければ、足を組むことができない。
一般的な女性を見ていると、手で足をサポートすることなどせず、足のみで足を組んでいる。
ーーなぜあのようなことができるのだろう
私も、自力で足を組むことに挑戦してきた。
何年も挑戦してきた。
その結果、
「内転筋とハムストリングが肥大している」
という事実にたどり着いた。
自力で足を組むとき、途中まで足のみで運ぶことができる。
しかし、片方の内転筋もしくはハムストリングが、逆の大腿四頭筋と接触することで、片足を乗せた瞬間に足が滑り落ちてしまうのだ。
これを回避するには、手の力を借りるしかない。
両手で片方の太ももを持ちあげ、さらに勢いをつけながら逆足の上に放り投げる。
すると、勢い余って足と足がきっちりジョイントされ、無事に足が組まれる。
それ以来、なんとかこの方法で足を組むことができるようになった。
*
電車で足を組んでいて困ることが一つだけある。
それは、一度足を組んだら降りるまで組み続ける(足をほどくのにも一苦労だから)ため、上の足がしびれて立てなくなることだ。
私の太ももがきっちりと組み重なっているということは、血管もきっちりと締め付けられているわけで、上に乗っかってるほうの膝裏の血管と、下の足の膝頭が強く密着し続けた結果、極度のうっ血状態となる。
そのため、下車しようと組んでいた足をほどくと、足がしびれて動けない。
さらにしばらくすると、強烈な痛みで歩くことができない。
そもそもなぜ、足がしびれたあとに痛みを感じるのかということだが、このメカニズム、実は未だ解明されていないらしい。
諸説あるうちの一つに、活性酸素に反応するタンパク質の作用が考えられる。
足を組むことで阻害されていた血流が、足をほどいたことで再開し、細胞から大量の活性酸素が発生する。
この活性酸素に反応して痛みを引き起こす、感覚神経のタンパク質 ”TRPA1” という物質があるらしく、血流低下による低酸素状態がTRPA1の過敏化を誘発し、血流が再開することで発生した活性酸素がTRPA1を刺激した結果、痛みの情報が脳に伝わる、というものだ。
小難しい話は置いといて、とにかく、足のしびれと痛みで電車を降り過ごしたことは何度もある。
そのくらい、私にとって優雅に足を組むことの代償は大きい。
*
いま、正面の女性は、組んだ足をさらに逆の足首に巻きつけている。
私は、大腿部が太いだけでなく、ふくらはぎやヒラメ筋も分厚い。
足首に絡めようにも、逆足に触れることすら不可能なため、あんなツタが巻きついているような状況にはならない。
必死につま先を足首に巻きつけようと試みたが、足の指が攣って終わった。
このように足や尻が太い(デカい)ゆえの惨めな経験は、過去にいくつもある。
オシャレな店で細身のデニムを試着したら、デニムのウエスト部分が太ももで止まり、上げることも下すこともできなくなった。
その結果、店員が必死に引きずり下ろしてくれた。
オシャレな店で流行りのスカートを試着したら、お尻の出っ張りにスカートが乗っかる感じになり、ずいぶんと後ろの丈が短い、前下がりのミニスカートになったことがある。
店員は必死に、何度もスカートの裾を引っ張っていた。
タイツを履けば、足の体積にタイツが持っていかれるため、ウエストまで引っ張り上げるには長さが足りなくなる。
つまり、私はいつも、お尻の半分くらいまでしかタイツを履いていない。
こんなことが私の下半身では起きているのだ。
人間の体とは不思議なものだ。
Illustrated by 希鳳
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