私は性格が悪い。
少なくとも決して良くはない。
だから、いちいち気に入らないことが多い。
例えば「ライター」という仕事の名称について、これが気に入らない。
そして、ライターが原稿を書くことを「ライティング」と言う。
これもまったく気に入らない。
一応、原稿を依頼され、指定された文字数で指定された内容で指定された条件で書いて、お金をもらっているのだから「仕事」と言ってもいいだろう。
しかし、
「私、ライターなんです」
と自己紹介する(される)ことに、ものすごく違和感というか嫌悪感がある。
「ライター」と言えばそれだけで「えー、すごーい」と言われることを約束されたかのような、ふざけた魔法のワードとしか思えない。
「どんな記事が書けますか?」
この質問に、的確かつ定量的に答えられる人は「ライター」と自称しても悪くはないが。
*
癖の強い編集長(薄毛)は、無理難題を出してくる。
少し前の話だが、
「下世話な話、そうだな、下ネタ含んだ感じでなんか書いて」
と言われたことがある。
――私は真面目な人間だ。
下ネタなんか書けるわけがない。
しかも編集長(偏屈)のこだわりは強いので、表面的なエロを書いたとしたら、鼻で笑って「ありがとう」と言われるだろう。
そしてこの「ありがとう」は、「さよなら」を意味するという恐怖。
だからこそ、こういう無理難題を出さないでもらいたい、と常々祈っていたのだが、その時は来てしまった。
「書けません」
とは言えない。
なぜなら、文字は書ける、エロいことも分かる、そしたら書けないはずないよね?となるからだ。
私は葛藤の末、いくつかのエロ記事を書いた。
さすがに編集長(頑固)も、最初の数本に対しては、「楽しませてもらったよ」とか「面白いね」とか、当たり障りのないコメントをしてきた。
しかし5~6本書いた頃、
「少し刺激が足りない印象。
安全運転じゃなくて、東名を140キロくらいで走る感覚がほしい。
見つかったら赤キップだけど、まぁ珍しくもないスピードオーバー、という感じで書いて。
いますぐ」
――これは相当難しい
そんなスピード感、車載メーター見ながらでないと、免許取り立てのこちらからしたら測りようがない。
それでも書かなければならない。
しかも、今すぐ。
――こうして私はエロ記事も書けるようになった
そんなある日、しばらくエロ記事のオーダーがないな、と思っていた矢先、
「エロいの、なんか書いて」
――来た来た。
よし、編集長(オッサン)の度肝を抜く、いや、彼が求める原稿を出してやろう。
お、こいつもようやくわかってきたか、と言わせてやろう。
何より、求めるレベルの記事が書けるようになったという、手下の「成長ぶり」を見せたかった。
そして私は書いた。
リアリティ重視の私は、
「絶対にリアルに書くこと」
を大原則としている。
これができないなら、私は書かないと決めている。
――できた。
内容も面白いし情報量も豊富、臨場感あふれるエロさだし、完璧に編集長(オタク気質)のお眼鏡にかなう作品だ。
私は得意満面に原稿を送った。
・・・途中省略するが、結果的にこの原稿はボツになった。
私にとって初の「ボツ」だった。
理由は「過激すぎるから」。
たしかに掲載するメディアからしたら、下手に過激なエロ記事を載せたら、アダルト認定される恐れがある。
メディアが求める温度感というか期待値というか、そういうものを汲んだうえで「適度に熱量のあるエロ」を書かなければいけなかった。
私のミスであり、これは東名200キロで一発免取コースだったというわけだ。
*
世に出回っている「そこそこエロい記事」のレベルを調査するために、ネットサーフィンをした。
タイトルで惹かれるコラムは、やはり読みたい気持ちをくすぐる。
しかし、その期待とは裏腹に全然エロくない内容だったりすると、幻滅度がハンパない。
あと、書き手はものすごくエロいことを書いているつもりだろうが、読んでいて全然エロくない記事、というのも幻滅だ。
そして私がもっとも忌み嫌うエロ記事は、
「これ絶対ウソ」
という内容のもの。
もう明らかに嘘だと分かるレベルの。
私はとくに、リアルと虚偽の狭間というか、そのギャップについてネチネチと突っ込むタイプなので、これを書いた本人がいたら、倒れるまで追及し論破する自信がある。
あと、男が女のフリして書いてる文章。
その逆も然りだが、これも「ナイわー」と興醒めする。
こういう「違和感満載のエロ記事」を読むと、内容以前に幻滅しすぎてお話にならない。
読者を興奮させなければならないのが、逆に萎えさせてしまう。
(こんなんでよく「ライターです」とか自称するよなぁ)
しかし、読み進めると「惜しい!」というエロ記事もある。
多分、嘘というか架空の設定なんだけど、なりきれてないからボロが出ている、という感じの惜しさ。
もう少しなりきって書けばエロさが増したのに!と思いながらも最後まで読めるエロい内容。
ところで、エロ記事を書く当事者にすれば、連載形式で締め切りに追われたりすると、
「毎回ドエロ話なんて書けるわけないだろ!」
という主張は理解できる。
だったら、だ。
だったら、
プロぶるなよ、
と言いたい。
職業ライターと名乗るなら、どれだけ大量に頻繁に原稿を依頼されたとしても、質を下げずに書ききれよ、と。
誰だって、ある程度の時間をかけて取材し、頭を整理して状況確保したうえで書けば、それなりのエロ記事は書ける。
しかし、プロとして書くならば質の担保は当然のこと、何回でも完璧なエロを提供すべきだ。
*
とまぁエロ記事をハシゴしながら、見ず知らずの「ライター」と名乗る人たちをバッシングする私。
そんな私はライターという職業のことを、
「書く仕事」
と、なんとなく曖昧に表現する。
もちろん、ライターと名乗るにふさわしい実力、経験、実績があるわけではないから、当然の謙虚さとも言えるが。
だからこそ「士業」という職業を舐めないでもらいたい。
「士業」を名乗るからには、それなりの期待と責任が発生する。
経験豊富なベテラン素人とは、責任レベルがまるで違う。
そして信用失墜は士業にとって、もっとも恐れるべき行為となる。
クライアントの期待に応えるべく、業務に邁進すること。
また、ミスを犯した(誤解や齟齬を含む)場合の責任の取り方も、士業者は覚悟の上で生きている。
(私は賠償責任保険加入済み、かつ、請求実績あり)
私もいつか胸を張って、
「職業はエロライターです!」
と言えるように、
1、エロなりに品位の保持
2、エロい知識の涵養
3、エロに対する信頼の高揚
4、編集長(曲者)との相互の信義
5、エロに関する守秘の義務
これらの倫理綱領を意識しながら「書く仕事」に邁進する所存だ。
エロは正義!
「個体の維持と種の保存」
これが人間を含む全ての生物の基本原則である以上
【エロは正義】なのである。
兄に力説されてもなぁww