記憶に残る顔

 

スタバの良さとでも言おうか、従業員の質の高さがうかがえる対応の一つに「顧客の顔を覚えている」が挙げられる。

それは、個人的に顔を覚えているというだけでなく、スタバ利用客として認識している・・という意味も含めてのこと。たとえば、「いつもご利用くださり、ありがとうございます!」の一言が添えられると、それだけで受け手の気持ちはほっこりする・・ある意味”接客教育の賜物”ともいえるが、毎日スタバへ通い毎回大量のドリンクを注文する超常連のわたしからすると、その一言は当たり前ではあるが嬉しいものである。

 

そして、単にスターバックスカードを提示したことで「あぁ、いつも使ってくれているんだな」と認識されるのではなく、「あれ、お久しぶりです!」とわたし個人を特定した上で対応されると、明らかにこちらの意欲というかテンションが異なる。

しかもそんな会話が多い気がするのは、わたしが記憶に残りやすいフォルムやオーラだからなのか——自分ではよく分からないが、店員がわたしを覚えている率が高いのも事実で、むしろこちらが気を使って「お・・おぉ、久しぶり!」などと調子を合わせる始末。

 

そんな自他ともに認めるヘビーユーザーのわたしだが、昨日、地元のスタバでやらかした事件が尾を引くあまり、行きつけである同店へ向かうのをためらった。無論、わたし自身の不注意が招いた事件であり、被害者も店舗もなんら落ち度はない。だが・・いや、だからこそ申し訳なくて行きづらいのだ。

というわけで、乗り換え途中にある店舗へ寄って帰ろうと、久しぶりに飯田橋駅構内のスタバへ足を踏み入れた。

 

「あれー、お久しぶりですぅ!」

入店と同時に笑顔で声をかけられたわたしは、顔なじみの店員の存在にホッとした。敵味方の話ではないが、個人的に認識されている安心感に加えて「同士」のような仲間意識が生まれるから不思議である。

その流れついでにマイタンブラーを手渡しながら、昨日やらかした”コーヒーぶっかけ事件”について語るわたしと、その内容を真剣な表情で聞き入る店員——そう、失敗談というのは他人に話すに限る。

 

「でも分かります、その気持ち。済んだ話とはいえ、なんとなく行きにくくなりますよねぇ・・

などと相槌を打ちながら、グランデサイズのアイスコーヒーとワンモアコーヒーの会計を処理する彼女は、レシートを取り出しながらなんともいえない表情をしていた。わたしを憐れむような慈愛に満ちた表情というか、それでいて高揚しているような——。

「そんなことがあったからこその・・・これですよ!!」

そう言って手渡されたのはやけに長いレシート——なんと、当たりレシートが出てきたのである。

 

「スタバの当たりレシート」とは、通常のレシートの下部にアンケートのQRコードがついており、回答すると「どれだけトッピングやカスタマイズをしても、トールサイズならば無料クーポン」が発行されるのだ。公式には明らかにされていないが、出現確率は1000分の1程度と噂されており、そんなレアなレシートが出ると顧客よりも店員のほうが喜ぶから面白い。

(禍福は糾える縄の如しとは、まさにこのことか・・)

”コーヒーぶっかけ事件”の翌日ということもあり、スタバに対して申し訳ない気持ちで一杯のわたしは、むしろ当たりレシートを引き出したことに喜ぶ彼女の姿を見て心が温かくなった。あぁ、喜んでもらえてよかったな。

 

 

帰宅後、とある友人から一通のLINEが届いた。それは、彼女の同僚とのやり取りをスクショしたもので、「なにごとだ?」と怪訝そうに内容を確認したところ、そこにはまさかの「わたし」が登場しているではないか。

「今日、用事があって白金に行ったんだけど、見たことある人とすれ違って、〇〇さんの格闘技仲間だったと思う。ショートで金髪っぽいヒト」

それに対して友人が、

「間違いない!白金高輪に住んでる笑」

と返したところ、

「やっぱり!笑 相手はまったく私のこと知らないんだけど、私だけが『誰だっけ!?』となってた」

という流れ——まさかの、面が割れていたのだ。しかも、友人のSNSに登場するわたしを見て覚えていてくれたらしく、それで「誰だっけ?!」となった模様。

(・・そ、そんなに印象的かつ二次元と同じ顔をしているのか、わたしって!?)

 

ということは、各地のスタバを巡回するたびに「お久しぶりです」などと親し気に声をかけられるのも、わたしがやけに記憶に残る顔をしているからであり、企業努力でもなんでもない可能性が浮上してきた。

そういえば昔、「あなたは探偵には向いていない、なぜなら目立つから」と、探偵から太鼓判を押されたこともあったな——。

 

 

スタバの従業員の質は高いが、それとは別のところで「わたしを覚えている」という理由がありそうな出来事なのであった。