本日、「なるほど」と納得したことを2つほど。
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しゃぶしゃぶの食べ放題に来た。質より量のわたしは食べ放題で十分。そして毎回、食べる肉は決まって「豚バラ肉」のみ。
国産黒毛和牛、A5ランクの熟成肉ーー。
そんなものに興味はない。もっぱら豚バラ一辺倒。
ただし店のルールで、豚肉プラスもう一種類を選択しなければならず、同席する男どもに決めさせる。
ーーどうせわたしが金を払うんだ、安い鶏肉にしろ。
そう強く念じたテレパシーは届かず、ハイエナ2人は口を揃えて「厳選牛」と言った。
スタートから全力のわたしは、最初の肉が到着する前にテーブルに備え付けられたタブレットで「三元豚」を3皿、ハイエナ用に「厳選牛」を2皿クリック。
ーーこいつらには牛肉を与えておこう。わたしは豚肉しか食べないのだから。
しばらくすると追加の肉が五重の塔となって運ばれてきた。一番上の皿には厳選牛と思われる濃い赤色の薄っぺらい肉が重なっている。ワクワクしながら二番上の皿をのぞく。すると二枚目も牛肉の様子。となると以下3皿は自動的に三元豚ということになる。
念のため二枚目の皿をめくると、そこには赤々とした牛肉が並ぶ。すべての皿を確認したが、どれも同じ色・形。
ーーおかしい。
わたしはたしかに「三元豚」と「厳選牛」をこの手でクリックした。どうせこんなものは機械的に出すわけで、保管場所はそれぞれの肉によって分かれているはず。つまり厳選牛を3皿+2皿という取り出し方はしないだろう。
ではなぜ。
考えられることといえば、もしかするとわたしは肉の繊細な違いを見逃しているのかもしれない。この店の牛バラ肉と豚バラ肉は、じつはソックリなのかもしれない。きっとそうだ。
気持ちを切り替えたわたしは、5枚連なる「何らかのバラ肉」を箸ですくうと鍋へと放り込んだ。
ーーいや待てよ。仮に全部牛肉だとするとわたしの食べる肉がない。念のため三元豚を追加しておこう。
店員を疑うわけではないが、とりあえず三元豚を5皿追加した。そしてすぐさま、鍋で色を変えた「何らかのバラ肉」を口へ入れる。
ーー牛肉の気がする。でもこれがこの店の豚肉なのかもしれない。
わからない。この肉は厳選牛なのか三元豚なのか、わたしには判断がつかない。ハイエナどもはモリモリとうまそうに、その「バラ肉」を平らげている。
ーーこれはどっちだ、豚バラなのだろうか。いや、牛のはずだ。いやいや、まさかそんなはずはない。
とそこへ「三元豚」が届けれらた。
「やっぱり違うじゃん!これだよ豚バラは!」
わたしは思わず叫んだ。そうだ、この薄ピンク色のほっこりとしたカラーリングこそが、豚バラ肉。あんな禍々しい深紅の紙ッぺらではない。
豚バラ5枚をざざっと箸ですくうと、鍋へと放り込む。
ーーこの5枚はわたしのものだ。おまえらはそのくすんで縮れた牛肉を片付けろ。
豚バラは熱が通ってもキレイなピンク色をしている。それに比べて牛肉は、こげ茶色というか炭色というか、真っ赤な肉がくすんだグレーに変貌する。
ここで初めて、わたしは豚肉と牛肉を見分けることができた。そしてなるほどと思った。
「人間というものは、比較する肉がない場合に牛バラ肉が豚バラ肉にもなる」
*
わたしは競技者として散弾銃を2丁所持しており、過去にはピストル射撃に勤しんでいた。そしていまはブラジリアン柔術紫帯として、日々練習に励んでいる。
そんなわたしの「天職」といえば、「傭兵(ようへい)」か「暗殺者」だったのではないか、という話題になった。
たしかに持ち前の能力を活かすならば、パソコンに向かってカタカタ仕事をするよりも、20キロの装備品を背負って戦地に赴くほうが向いている。
だが、プロの兵士と比べればわたしなど足手まといにしかならない。よって、残念ながら傭兵は却下。
となると暗殺者しかない。しかし過去に、そういった仕事に関わる人間から言われた言葉を思い出す。
「おまえは無理だよ。目立ちすぎる」
これは探偵にも言えることらしいが、密かにターゲットの命を狙う仕事をするのに、無駄に目立つようでは任務に支障が出る。
服装が派手だとか、顔立ちがハッキリしているだとか、そういうことではないらしい。よく言えば「オーラ」、言い方を変えれば「圧」のようなものがある人は、暗殺者や探偵には不向きなのだそう。
そこへ友人が口をはさむ。
「そういえば、殺し屋に美人はいないらしいですよ」
これも前述の理由と同じで、美人は目立つからとのこと。
ということは、
「遠回しに、わたしは美人だと言われたのか」
ーーなるほど、これなら合点がいく。
Illustrated by 希鳳
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