近所のスーパーで賞味期限ギリギリのバウムクーヘンを買ってきた。これと牛乳を一緒に流し込むと、絶妙に美味い。
賞味期限ギリギリをあえて買う必要はまったくないが、スーパーで売られている粉ものの菓子は新鮮さなど関係ないわけで、それなら20%引きを買った方が断然お得だ。
牛乳と食べるのがバウムクーヘンの醍醐味だが、わたしはうっかり牛乳を買い忘れて帰宅した。牛乳の代わりになりそうな飲み物を探すも、水かお茶しか見当たらず、あきらめる。
先に言っておくが、バウムクーヘンが特別好きなわけではない。
特別好きな菓子といえば、チーズケーキを差し置いて他はない。小腹を満たすため、お口直しのため、たまたま安くなっていたから、そんな程度のセレクトだ。
さてーー。
牛乳なしでのバウムクーヘンは魅力半減だが、やむをえない。切り株の節(フシ)を握ってちぎると、おもむろに口へと運ぶ。鼻に近づくにつれ、ニセモノだが美味しそうな匂いが漂ってくる。
2~3口モグモグしたところで、つぎの切り株に手を伸ばす。と、その瞬間、息ができなくなった。
ーーのどにバウムクーヘンが詰まった!!!
嚥下(えんげ)をいささか急いだせいで、パサついた切り株がのどで立ち往生している。水で流し込むべきか?いや、バウムクーヘンが水分を吸収して膨らめばやっかいなことになる。
とりあえず、のどのあたりを上から下へ指で撫でてみる。同時に小刻みにジャンプし、重力を利用する。そうだ、イメージも大切なはずだ。くしゃくしゃに押しつぶされてギュッとなったバウムクーヘンが、徐々に胃袋へと落ちていく様子を脳内に強く描く。
そうこうするうちに、少しずつのどのつっかえが取れ、息ができるようになった。
ーーバウムクーヘン、危険。
この状況を友人に伝える。すると”最近の豆知識”として、ちょっとしたコツを披露してくれた。
「うつむき気味にして飲み込むと、むせない」
今回のわたしは誤嚥(食べ物や飲み物が気管に入ってしまうこと)ではなく、単にのどに詰まらせただけなのでちょっと違うとは思ったが、とりあえず次回は試してみようと思う。
逆にわたしの豆知識は今回の教訓も兼ねて、
「焦ってバウムクーヘンを食べると窒息する」
ということを発表した。
豆知識というくらいだから、他に何かないのか尋ねる。
「料理の出前を時間指定すると、かなりの確率で冷めてる」
これは豆知識なのかどうかわからないが、そうなのかと一応メモる。
わたしの予想では、あらかじめ用意した料理を指定時刻に届けるため、出来上がったものをすぐに運んでいないからだと踏む。
時間指定の場合、何よりも厳守しなければならないのが「時間」のため、決して遅刻しないように届ける必要がある。そのため、余裕をもって料理をつくり、ていねいに運ぶことを心がけているのではないだろうか。
それに対して友人は、
「他を回ってからウチに届けている」
と推測する。配達員は早めに店を出発し、その途中でいくつかの配達先へ届けたあと、指定時刻に友人宅へ到着するという順路。
たしかに配達途中で料理は冷めるだろうし、あらかじめ配達時刻が決まっている分、後回しにされやすい。
ーーそういえば最近、顧問先のレストランがウーバーイーツをやめた。
その理由が「美味しい状態で届けられない」ということだった。どんなに最高の料理をつくったとしても、できたてに優る味はない。
料理の運搬のしかたや配達時間、それによって味は大きく変わる。その結果「美味しくない」と評価されるくらいならば、デリバリーなどやめて店舗で味わってもらいたいーー。
考えてみれば当たり前のことだが、われわれ消費者が図に乗るせいで、逆に便利なシステムを手放すことになったのだ。
友人が突如、
「サシの入った牛肉は一口目がピークだが、ペヤングはもうちょい後にピークがくる」
と新たな豆知識を告げる。もはやこれは豆知識でもなんでもないが、たしかにその通りだと頷く。
ペヤングは、一口目より3~4口目のほうが美味い。
あれはなぜだろう。たいていの「美味い」と言われる食べ物は、一口目が美味い。だがペヤングに限っては、何口か馴染んでからのほうが確実に美味さを感じるのだ。
結局、われわれは「豆知識」なるものを持ち合わせていなかった。
とりあえず、バウムクーヘンは牛乳とセットで食べる方が、美味いし安全だということくらいか。
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