「夏場の男性のニオイが苦手」発言をリアルに補完したい

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少し前に、フリーアナウンサーが自身のXで「夏場の男性の匂いや不摂生している方特有の体臭が苦手すぎる」という投稿をして大炎上。その後、所属事務所との契約を解除されたり、ビジネス研修事業での提携講師の契約も解消されたりと、本人も予想だにしない結末を迎えた。

まぁあれは、Xというコンテンツで燃えそうな意見を述べたことに問題があるわけで、他のメディアならば契約解除となるほどの大事には至らなかっただろう。そのくらい、Xという"魔の巣窟"における発言は、まともじゃない方向へ急転直下させられる・・ということを、覚悟しておかなければならないのである。

そういえば、大手衣料品チェーンの「しまむら」がリリースした子ども向けの衣服に、「パパはいつも寝てる」とか「パパは全然面倒みてくれない」という皮肉めいたメッセージがプリントされていたことで炎上し、即日販売中止となった事件も記憶に新しい。あれも、Xで荒れたことにより大炎上したわけで、やはり「顔の見えないメディアの在り方」を考え直すべきではないかと、個人的には思うわけだが。

 

とはいえ、クビになったフリーアナウンサーの意見は、概ねその通りだと思うから微妙である。職業柄、言葉に関しては一般人よりも高い意識を持たなければならないのは当然だが、とはいえそんなことで叩かれて職を失うほどの、問題発言というか差別発言だったのか?と思うと、なんとも呆れてしまう。

今の世の中、多くの暇人は「他人の粗探し」でしか欲を満たすことができないのだろう。ちょっとでもはみ出た発言があれば、寄ってたかって叩いて潰して、それで己の正義を貫いたつもりにでもなっているのか。しかもそれを、面と向かっては決してやらないわけで、隠れ蓑があるからこそ非現実的な「自分」を演じることができるのだ。・・まったく、幼稚でバカバカしい。

 

そして、なぜこの話題を掘り返したのかというと、さっき乗っていた地下鉄車内で、思わず鼻を覆ってしまうほどの"悪臭を放つ男性"と遭遇したからだ。

 

電車のドアが開いた瞬間、比較的空いている車内へと足を踏み入れたわたしは、汗の腐乱臭のようなニオイが充満していることに気がついた。思わず「うっ」となりながら、素早く車内を見渡すもホームレスらしき人物は見当たらない。

(ということは、ホームレスは降車したが残り香がキツイ・・ということか)

とりあえず気を取り直して、空いている座席へ腰を下ろしたのである。

 

(ていうか、なんだこの異臭は。そういえばかつて嗅いだことがある・・そうだ、マラソンランナーのように走って出勤するオジサンがいたが、あのヒトのニオイがするんだ!!)

ニオイというのは、かなり古い記憶まで呼び起こすチカラがある。名前も思い出せないオジサンだが、ニオイだけは今でも鮮明に覚えているわけで、ニンゲンの嗅覚恐るべし・・といったところか。

彼のあのニオイは、リュックの背中や肩紐部分に染み込んだ汗の腐敗臭なのだろうか。シャツやパンツ、靴下あたりは社内で着替えている様子だったので、それでもクサいということは、リュックかランニングシューズが発信源ということになる。だが、靴ならば脱がない限りはそこまで悪臭を放つことはないだろうし、となるとリュック一択となるわけで——。

そんな昔の記憶をたどりながら、わたしは恐る恐るニオイが漂ってくる左側へと視線を送った。するとそこには・・・まるで絵に描いたような、マラソンランナー風のオジサンが座っていたのだ。

 

全身真っ黒に日焼けをした初老の男性は、2リットルの水をグビグビとラッパ飲みしていた。柔らかい素材の小さなキャップをかぶり、使い古した白いタオルを首から下げ、タンクトップと超ショート丈のランニングパンツを履き、小ぶりなリュックを抱える姿は、間違いなくランニングが趣味のオジサンである。

とはいえ、彼自身に悪気があるとは思えないし、見た感じもいい人そうである。普段から不潔にしているわけでもなさそうだし、たまたまランニング後の今だからこそ、不可抗力的に腐乱臭を放っているだけで、彼を責める気にはなれない。

しかし、だからといってこの悪臭の中で、ノーガードのまま呼吸を続けることは困難である。マスクやハンカチでもあれば空気をろ過できるだろうが、あいにく持ち合わせておらず、このままでは生命の危機である!!

 

わたしはそっと、両手で鼻と口を覆った。他の乗客たちは皆、手元のスマホに目を落としているため、わたしの異変に気づく者はいない。

(——ていうか、あんたらは平気なのか?!むしろ、その神経が羨ましい・・)

一般論だが、目に余るならば見なければいいし、耳障りならばイヤフォンで音楽を聴くなり耳を塞ぐなりすればいい。だが、ニオイだけはどうにもならない。息をしなければいい・・とはならないわけで、その場を離れるしか解決策はないのである。

もちろんわたしは、そっと席を立ち隣の島へと移った。それでもまだ、鼻の奥にこびりついた汗の腐乱臭が、わたしの脳を刺激し続ける。あぁ、忘れたいニオイなのに、なぜわたしにまとわりつくんだ——。

 

 

こんなことがあったからこそ、特に"夏場のニオイのエチケット"については、口を酸っぱくして理解を促したいのだ。これは男女関係なく、自分自身では気がつかなくても「異臭を放っている可能性がある」・・つまり、大汗をかいた後にそのままにしておくとか、汗がしみ込んだ布製品を使い続けるとか、そういった行動をとっているヒトは皆、その可能性があることを認識してほしいのである。

そもそも、口に出さずとも誰かから「あいつクセェな」と思われているとしたら、そんな嬉しくない事実はないだろう。さらに極論を言えば、ブサイクやデブのほうがマシである。なんせ「クサい」と思われたら、その後もずっと「アイツはクサイ」というレッテルを貼られるわけで、見た目の問題よりも辛い現実が待っているのだから。

 

・・というわけで、袋叩きにあう心配もなければ所属事務所をクビになる恐れもないこのわたしが、「夏場のニオイ事件」について代弁しておこうではないか。

 

Illustrated by 希鳳

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