職責を舐めるな、という独り言

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タダでもらえるカネというのは、それなりの「条件」がある。

個人でもらえる給付として、「雇用保険の失業給付」「健康保険の傷病手当金」「雇用保険の育児休業給付金」などが有名だが、企業がもらえる代表格として「助成金」「補助金」というものがある。

わたしは社労士なので、厚生労働省管轄の助成金をメインに扱うが、無条件で数十万円がもらえるなどという夢の話は存在しない。

 

たとえば特定求職者雇用開発助成金通称「特開金」は、就職困難な労働者をある条件で雇い入れ、6か月が経過したら初回の申請ができる助成金。

「就職困難な労働者」とは、母子家庭の母・父子家庭の父、60歳以上の者、身体・知的・精神障害者、中国残留邦人等永住帰国者、ウクライナ避難民などを指す。

 

そして、これらの労働者を

「ハローワークや一定の職業紹介事業者等の紹介により雇用した場合」

という「条件」がついている。ここがポイントだ。

 

「ハローワーク等からの紹介を受ける前に、雇用の予約があった場合は対象外」

 

この一文を見逃してはならない。

知り合いのシングルマザーを、ハローワークを通じて雇用すれば助成金がもらえる。これはおいしい話だ!

・・・そんなはずはない。

 

形式的に「ハローワークから紹介を受ければいい」というわけではなく、ハローワークを通じなくても雇用契約が成立する場合、それは「助成」する必要がないため、めでたしめでたしとなるのだ。

企業にとったら「めでたくない」ことかもしれない。同じ人間を雇用するのに、知り合いじゃなければ助成金として数十万円がもらえて、知り合いだったばかりにゼロ円となるのだから。

とはいえ、そもそも助成金の目的を考えれば、当たり前のことである。就職が困難な労働者を、継続的に雇用してくれる事業主に対して助成する給付であり、助成金など支給しなくても継続雇用が成立するならば、それに越したことはない。

 

このような「雇用機会の増大を図る目的」として助成金が存在することを、知ってか知らずかは不明だが、コンサルタントを名乗る人々がこれらの助成金を悪用するケースが後を絶たない。

「採用面接にきた応募者が障害者手帳を持っていたら、ハローワーク経由で応募してもらえば助成金がもらえます」

「本人には『契約更新は形式上のこと』と説明し、まずは数か月間の有期雇用契約を締結し、助成金をもらいましょう」

このようなやり方は、ハッキリ言って不正なのだ。

 

言葉は悪いが「バレなければいい」と考えるのが、無資格コンサルタントにありがちなやり方である。士業者ならばコンプライアンスや倫理観を絶対視するため、不正の可能性があるならばそちらへは進まない。

少なくともわたしは、無知な事業主を言葉巧みに操って、助成金を受給させたいとは思わない。その結果、「使えない社労士だ」と罵られても構わない。

 

そして今日も、

「知らないと損をします!」

「誰でももらえるお金です!」

という派手な誘い文句で、顧問先へ助成金の営業があった。無資格の素人が、過去の助成金サポート実績を引っさげてセールスに訪れたのだ。

 

「これをするだけで、●十万円もらえます。なぜやらないのですか?」

 

コンサルという職業はズルい。そうさせた「後始末」まではしないからだ。

 

先に述べた通り、国がタダでカネを出すには、何らかの条件が必要となる。

たとえば、社内ルールを整えたらもらえる助成金があり、その企業に必要のないルールだったとしても、助成金のためには強引に整備しなければならない。

そして一時金として助成金を受給し、手数料を受け取ったコンサルは「お役御免」とドロンする。

 

その後企業は、残された「無謀なルール」に則って運用することとなる。

仮にそれを無視した結果、たまたま労働局の調査に当たったりすると、それこそ助成金の返還や、法違反の是正勧告を受ける可能性がある。

 

しかし当時のコンサルは、知らぬ存ぜぬで逃げるだろう。

これが社労士ならば、間違いなく責任を取ることになる。だが無資格のコンサルには、その必要がないわけで。

 

「職責」というものを甘く見ないでもらいたい。

こちらは、人生を賭して社労士を名乗っているのだから。

 

Illustrated by 希鳳

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