国籍や年齢に関係なく、日本において一週間に20時間以上働く労働者は「雇用保険」に加入しなければならない・・という決まりがある。
ただし、学生やダブルワーク先で雇用保険に加入している者は対象外だが、「アルバイトだから加入しなくていい」とか「外国人だから加入しなくていい」という条件はないので、労働時間が週20時間以上となる場合は強制的に雇用保険加入の手続きを行わなければならない。
逆に、労働時間が週20時間を下回る契約となった場合は、雇用保険の被保険者としての資格を喪失させる必要がある。そして専門的な話になるが、その際の"喪失原因"というのが「1および3以外」という選択肢になるのである。
実務的な内容ではあるが、雇用保険を喪失する際の"喪失原因"は3種類ある。1つ目が「離職以外」、2つ目が「1および3以外」、3つ目が「会社都合の離職」で、これらのうちいずれかを選ばなければならない。
ちなみに、労働時間が週20時間未満となった場合の喪失原因は、字面から判断すると「"離職以外"だろう」と考えるのが一般的。ところが、正解は"1および3以外"なのである。
では"離職以外の喪失"とはどういう場合を指すのか・・というと、「死亡、または、退職金の清算をせずに在籍出向する場合」がこれに該当するのだ。
そうなると、"1および3以外"の喪失原因は、具体的にどういう場合を指すのか・・という疑問が湧いてくるわけだが、判断基準としては以下の場合がそれに該当する。
・労働者の申し出による退職(いわゆる、自己都合退職)
・週の労働時間が20時間未満に変更されたとき
・取締役に就任したとき
・雇用契約の期間が満了となったとき
・定年や休職期間の満了を迎えたとき
・労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇だと、ハローワークが判断した場合
このような場合に、当該喪失原因を選択することになる。よって、離職したわけではないが労働時間が短縮されたことによる雇用保険喪失は、"1および3以外"を選択することとなるのである。
そして今日、とある会社の離職者についてハローワークから「お尋ね」の書面が届いた・・という相談を受けた。
その内容は「××さんの退職理由について、本人から『自己都合ではない』という主張があったので、退職届など客観的に退職理由が確認できる書類を送ってください」というものだった。
これはよくある話・・というと語弊があるが、離職者からすると「自己都合退職ではなく、会社都合退職にしてもらいたい理由」があるため、後々こういったトラブルが発生しがちな案件である。
さらに、今回の対象とされる離職者は、勤務態度について再三指導されるも一向に改善されなかった上に、関係各所からもクレームや会社を心配する声が寄せられたことから、話し合いの上で「自己都合による退職」となった模様。
しかしながら、この場合は往々にして「会社都合の退職」となることを、事業主は知らなかった。とても理不尽で納得のいかないことではあるが、会社側から退職を匂わせる発言をした場合、それは会社からの退職勧奨・・となり、その流れで退職へと持っていくと「解雇等により離職した者」に該当し、"特定受給資格者"となるのだ。
そして特定受給資格者となると、失業等給付(基本手当)の受給資格が、通常ならば直近2年以内に12か月以上の雇用保険加入期間が必要なところを、直近1年以内に6か月以上あれば満たせることや給付制限期間(自己都合退職ならば、一カ月は給付が受け取れない)が不要となること、また、給付を受給できる期間が長くなるなど、離職者にとって手厚い保護がなされるのである。
ほとんどの場合、失業等給付(基本手当)をすぐにもらえることから、自己都合ではなく会社都合による退職を希望する離職者が多いわけだが、会社からすると「散々迷惑をかけて、会社をめちゃくちゃにして、本人と話し合った結果『ならば辞めます』となったにもかかわらず、なんで会社都合退職になるんですか?」と、怒り心頭に発するのは当然のこと。
だが実際のところ、この程度のトラブル(退職理由が自己都合か会社都合か)ならば、助成金への影響を考慮しなければ大した問題ではないし、事実としてどちらが正しいのか・・という点をハッキリさせるだけなので、会社側としてもそう身構えることはない。
簡単にいうと、本人が「これからも在籍したい」と希望したにもかかわらず会社側が退職を説得したのならば、"退職勧奨"ということで会社都合退職にあたるが、話し合いの末に労働者が自発的に退職を申し出たのであれば、会社から切り出した話だとしても、自己都合退職として扱うことができる。つまり、退職の意思を決定づけたのが自分か会社か・・ということなのだ。
とはいえ、目に余る素行不良や業務上の指示命令に何度も違反するなど、"懲戒処分"に該当する場合は、「労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇=重責解雇」という手段をとることもできる。
だが解雇というのは、いかなる場合でも厳しい要件を客観的にクリアする必要があるので、世間で騒がれるほど簡単に「解雇」が通用するわけではない。実際に、不当解雇で裁判沙汰になるケースは多く、労使双方にとってカネと時間を無駄に費やすだけの不毛な争いは後を絶たないわけで。
そんなことからも、「重責解雇はハードルが高い」ということを口酸っぱく叩き込んだ上で、それでも重責解雇に該当する場合、失業等給付(基本手当)を受給する際には「自己都合退職と同様のカテゴリー」になる・・ということを伝えておこう。
——そりゃそうだ。労働者に非があり、会社に被害と迷惑を与えた結果の離職なのだから、自己都合退職と同等の扱いでなければ、逆におかしいだろう。
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今回、相談を受けた案件が重責解雇に該当するか否かは今後の展開次第だが、もしも重責解雇が認められたならば、自己都合退職を否定して離職理由の訂正を申し出た離職者にとっては、結果的に自身の希望を叶えられないことになる。
無論、会社側としても離職者に意地悪をしたり苦しい思いをさせたりすることを望んでいるけではない。だが、在籍期間中の信用失墜行為は目に余るものがあり、恩を仇で返された上に「会社都合退職にしてくれ」というのは、さすがに虫が良すぎる・・と感じるのはおかしな考えではないはず。
「労働者と使用者」という相容れない関係性において、大切なのは相互の誠意と信頼関係である。個々の能力や人間性というのも無視できない要素ではあるが、なによりも誠心誠意を尽くすことが、双方にとって幸せな着地点へと導くカギとなるのは間違いない。
——未来に向けてベストな一歩を踏み出せるよう、陰ながら応援するのであった。
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