何もしないほうが良かった話

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(結果的には、何もしないほうが上手くいくのか・・・)

 

事なかれ主義の日本人にとって、何かやって失敗するくらいなら、何もせずに成功もしないほうがマシ、という感覚は強いのかもしれない。

たとえば電車でルール違反を犯している人間を見つけても、返り討ちに遭うのが怖いから見て見ぬふりをする。その違反について注意した人がフルボッコにされても、自分たちは痛い思いをしたくないから見て見ぬふりをする。結論として、

「あの人は注意なんかしなければよかったのに」

という強引かつ本末転倒な意見で、傍観者らは何もしなかったことを正当化する。さらに、その事件を見聞きした人間も口々に同じことを言う。なんと愚かなことか。

 

何もしなかったのなら、何も言うべきではない。身の程知らずの若者が正義感を振りかざして悪人を注意したとして、フルボッコにされようがそれは結果であり、正しいか正しくないかの話ではない。成敗できれば英雄、返り討ちに遭えば自業自得、そんな虫のいい話があるだろうか。

注意をした本人以外の人間が、その人の行動についてああだこうだ言うべきではない。当事者以外の外野が、当事者の行動について意見できる立場だと思うのなら、それは大いなる勘違いだ。

逆に犯人の行為について、「あれは悪いことだ」と言うのは正しい。なぜなら悪いことをしたからだ。物事の良し悪しについて意見を述べるならば、確定してることについてだけ騒げばいい。

 

ということで、何もしないほうが結果として上手くいくケースは、日本においてわりと多いように感じる。そして今日、

「あぁ、どうせなら何もしないほうがよかったじゃん!」

と、悔しくも残念な気持ちになる事件があった。

 

 

「僕の保険証って、まだかな?」

友人からメッセージが届く。今年の頭に会社を設立したため、社会保険の新規適用申請の依頼を受けたのだ。しかしその手続きは1月19日に完了しており、保険証はその数日後に会社宛に郵送されているはず。すでに2週間以上経過しているわけで、届いてないはずがない。

 

「もう一度、郵便物を見直してみて。先月の後半を中心に」

 

社会保険の取得手続きは、はじめに日本年金機構で厚生年金の取得をしてから、そのデータが全国健康保険協会(協会けんぽ)の各支部へ転送される。協会けんぽでデータ入力が済むと、翌日には健康保険証となる青いカードが発行される。そして最後に「特定記録郵便」として会社へ郵送されるという流れ。

このように終始システム化されているため、保険証発行の過程で「発送モレ」は考えにくい。とはいえ保険証が届いていないのが事実となると、いったいどこへ消えたんだ――。

 

まずは協会けんぽへ電話をし、状況を確認。

「えーっと。そうですね、うちからは21日に発送してますね」

(ほらね、やっぱり。ということは保険証の再交付申請をするしかないか・・・)

「あ、ちょっと待ってください。返還も確認してみます」

返還とは、郵便局から協会けんぽへ郵便物が戻されることをいう。住所が違うとか、郵便局での保管期限が過ぎたとか、何らかの理由で受取人へ届かなかった場合に、差出人へ戻される仕組みになっている。

 

しかし今回、郵送先の住所は法人の登記場所ゆえ間違っているはずはない。しかも直接手渡しする郵便物ではないので、誰もいなくてもポストへ投函すれば済むという簡単な話。

(まさかポストがないのか?)

そんなまさかの事態に焦るも、友人は何度も「ポスト」を確認したわけで、他の郵便物は届いているのだから疑う余地もない。

 

数分後。保留の音楽が消え、担当者が電話口に戻ってきた。

「ありましたよ!戻されてました」

(なにっ!?)

「あて先の住所に、この会社がなかったみたいです」

一瞬、わたしが住所を記入し間違えたのかと背筋が凍る。しかし登記簿と申請内容とを見比べるも、間違いなく正しい住所が入力されている。いったいどういうことだ――。

協会けんぽとの通話をスピーカーにし、すぐさま友人へ電話をかける。その時、わたしには思い当たる節が一つだけあった。

 

「もしかしてさ、ポストにこの会社の表札出してないんじゃない?」

 

そう、友人は同住所で登記された別会社の役員でもあり、今回新たに同じ場所で自分の会社を設立したのだ。そして別会社の表札が出ていれば、配達員は「会社名が違う」と判断し持ち帰るだろう。

たとえば友人が別会社の代表を務めていたならば、

「会社名は違うけど代表者の名前が同じだから、投函してやろう」

と気を利かせてくれたかもしれない。だが残念なことに別会社の代表は友人ではないため、なおさら「あて先不明」扱いにされたのだと推測できる。

 

「あー、会社名ポストに貼ってないや」

 

・・・ということだ。わたしと友人との会話をスピーカー越しに聞いていた協会けんぽの担当者は、このような提案をしてくれた。

「それならば、今日の集荷は終わってしまったので、月曜日に被保険者さま宛に送りますよ」

なんと素晴らしい配慮!ありがとう、協会けんぽさん!

 

 

つまり、別会社の名前がポストになければ、保険証は無事に投函されたのだ。ところが別会社の表札が掲げてあったため、「間違っている」との判断から返還された。

ポストに会社名を貼るという「余計なこと」をしなければ、すべて順調に進むはずだったのだ。

 

だがわたしにも苦い経験はある。自宅兼事務所として社労士登録をしているわたしは、開業当初、郵便物が届かないというトラブルに見舞われた。そんなある日、わたし個人宛のゆうパックを届けてくれた配達員にこう聞かれた。

「この事務所とURABEさんは、同じということなんですね?」

事務所宛の郵便物をこの住所へ届けるには、「ここにはURABE以外に事務所も存在する」ということを確認しなければならなかったのだ。慌てて同じであることを説明し、その後は無事に郵便物が届くようになった。

 

しかし同住所に「氏」が異なる人間(住民登録なし)が住むことはあるし、会社を登記することもよくある話。そんなことで配達員を混乱させるくらいなら、表札など出さないほうが親切だ!と、プライバシー保護の観点からも思うのだった。

 

サムネイル by 希鳳

 

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