弁護士とは正直で神経質な人の職業

Pocket

 

労働者を雇用するうえで、企業による ”労働者のお試し期間” を設けることがある

 

その名も「試用期間」。

 

試用期間について法律上の定めはないが、お試し期間だからといって、何をしてもいいわけではない。

 

労働者を雇用することは、労働契約または雇用契約という契約を締結することで始まる

 

ここで議論となるのが、

・労働契約

・雇用契約

この2つは、似て非なるものか、あるいは非して似たるものか、どちらかということ。

 

私は、個人的には「似て非なるもの」と考えている。

労働法でいうところの「労働者」以外にも、雇用される場合があるからだ。

 

実定法上では、

労働契約について、労働契約法第6条によると、

「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」

と定義されている。

 

対象が「労働者」と「使用者」であることが明確に示されている。

さらに労働者は、労働関係諸法の保護があるため、たとえば労災保険や労働基準法の適用がある。

 

これに対して雇用は、民法623条によると

「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。」

と定義されている。

 

「雇用」は労務提供契約の一つで、「労働に従事することで報酬が支払われる」ということだ。

 

 

この2つの法律における細かな違いは、

・関係性において、労働は「使用者と労働者」、雇用は「当事者と相手方」

・支払われるものが「労働なら賃金」、「雇用なら報酬」

この2点が異なる。

 

ほぼ同一と思われるこの2つが、時には事件を引き起こすこともあるため、法律上はさることながら実務上も神経をとがらせなければならない。

 

労働基準法第11条では、

「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」

と賃金について定めている。

 

つまり「賃金」を受け取るのは「労働者」なのだ

同額の金員を受け取ったとしても、それが賃金ではなく「報酬」であれば、「労働者ではない可能性」も含んでいるということ。

 

ところが、判例を見ていると、この2つの契約形態を区別しているとは思えない。

 

同じトラブルでも、裁判で決めてもらうことが

「労働者の地位の確認」

であれば、労働者か否かの判断になる。

 

そして、

「雇用契約上の権利を有することの確認」

であれば、労働者性は問わない。

 

しかし、この2つのトラブルは、労働者と使用者での争いがほとんどなわけで、結局、労働契約も雇用契約も、労働者と使用者が当事者となることが現実的には濃厚。

 

 

今回、試用期間について調べていたときのこと。

 

私は、試用期間満了時の本採用拒否(=解雇)が認められたリーディングケースとして有名な、三菱樹脂事件(最大判昭48.12.12 民集27巻11号1536頁)と、試用期間満了前の解雇が無効とされたニュース証券事件(東高平21年9月15日 労判991号153頁)の2つの事件を中心に、試用期間と解雇のあり方について検討していた。

 

三菱樹脂事件での裁判所の見解として、

「今日における雇傭(雇用)の実情にかんがみるときは、一定の合理的期間の限定の下にこのような留保約款を設けることも、合理性をもつものとしてその効力を肯定することができるというべきである。それゆえ、右の留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない。 」

と述べている。

つまり、試用期間満了時の本採用拒否は、通常の解雇よりも緩い基準で判断してもよい、と言っている。

 

これに対してニュース証券事件では、

「(中略)試用期間が経過した時における解約留保条項に基づく解約権の行使が、解約につき客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当と是認され得る場合に制限されることに照らせば、6か月の試用期間の経過を待たずしてY社が行った本件解雇には、より一層高度の合理性と相当性が求められるものというべきである

ということで、試用期間満了前の解雇については、より厳格な判断が必要とされる。

 

この2つの事件における、比較対象となる「解雇」の違いについて、某弁護士に厳しく指摘された。

 

私は、

「試用期間満了前の解雇は、通常の解雇より厳格な判断が求められる」

と表した。

 

某弁護士は即座に、

「通常の解雇、ってなに?」

と追求してきた。

さらに、

「もう一度、声に出して読み直してみたら?」

と突き放された。

 

素直な私は声に出して読み直した。

ニュース証券事件の判決文には、どこにも「通常の解雇」という文字はない。

三菱樹脂事件の判決文に、「通常の解雇」が出てくる。

 

ーーここのことか

 

そのことに私が気づいた頃、某弁護士は

「試用期間満了前の解雇は、試用期間満了時の解雇と比べて、より一層高度の合理性と相当性が求められるって言ってるよね?

比較対象は、通常の解雇ではなく、試用期間満了時の解雇との話だよね?」

と、追い打ちをかけてきた。

 

たしかにそのとおりだ。

 

試用期間満了時の解雇については、通常の解雇との比較だが、試用期間満了前の解雇についての判決では、試用期間満了時の解雇との比較として述べられている。

 

解雇を判断するにあたり、「基準の厳しさ」を順に並べてみると、

 

(厳しい)

試用期間満了前の解雇

通常の解雇

試用期間満了時の解雇

(緩い)

 

こんな感じだろうか。

つまり、このチャートでいけば、

「試用期間満了前の解雇は、通常の解雇より厳格」

と言っても間違いではない。

 

しかし、弁護士はこれを許さない。

判決文が示す内容は、通常の解雇との比較ではなく、試用期間満了時の解雇との比較だからだ。

 

 

このモヤモヤしそうな指摘を受け、私は改めて弁護士の神経質さに敬服した。

 

物事を判断するのに、大局的な見方をする必要があるということは言うまでもない。

しかし、殊に法律について、また、その解釈については、何に対する判断なのかを明確にしなければならず、比較対象を混同してはならない。

 

文字で示せば同じ「解雇」でも、どの時点での誰に対する解雇なのかにより、判断すべき程度や条件が変わる。

 

微細かつ絶対的な判断だからこそ、法律(ルール)が成立するのだ。

 

私は本当に、法律の仕事などしたくないな、と思った。

 

 

法律の相談は、お金を払って弁護士にすべき。

それだけの価値が、彼らにはあるから。

 

 

しばらくすると、某弁護士から何やらURLが送られてきた。

 

クリックしてみると、それは本の購入ページだった。

 

「労働法といえば菅野」は、法曹界での合言葉。日本における労働法のフィクサー・菅野和夫教授の、「労働法第十二版」の購入ページが送られてきた。

 

「時代の変化のなかで形成されてきた新しい労働法の姿を体系化し、その中で個々の解釈問題を相互に関連づけて検討した、労働法の現在を知るために最適の書。」

 

その大著の購入ページと一緒に、ありがたいメッセージまでついてきた。

 

 

「俺に質問するときは、菅野を読んでからにしてくれ」

 

 

弁護士とは、恐ろしく正直な生き物だ。

 

 

Pocket

2件のコメント

わかる!
以前、調停でお世話になった弁護士さんがまさにこれだった!!
調停だから裁判とは違うんだけど、超厳密なのよね。
あと、独特の美意識があって、それは本来的な意味での正義感だったので、いろいろ勉強にもなったわ。
おっしゃるとおり、法律の相談はお金を払って弁護士にすべき!
(超高かったけど。。)

餅は餅屋、だよね😋
法律家が法律で飯を食える理由、一緒に仕事をしてるとひしひしと感じる。
私は絶対に、法律で飯は食えない。
そう断言する自信がある!キリッ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です