「だってさ、もし感染者出たら困るの俺らだよ」
友人の歯科医が言う。
「男気出して一人の患者を治療したとして、スタッフ、その他の患者、世論がなんて言うか。後でひどい目にあうのはこっちだから」
たしかにその通りかもしれない。
この質問は、今日わたしが整形外科で診察拒否をされたことについて、友人ならばどうするかを尋ねた答えだ。
アメリカから帰国後、PCR検査陰性、平熱、体調良好の人間が、頚椎損傷と思われる首から背中にかけての疼痛と、指先から肘あたりまでの痺れを訴えて整形外科を受診。しかしドクターが保健所へ相談した結果、
「(帰国後の待機期間中は)不要不急の場合は診察しなくていい」
ということで門前払いを食った。
その後、頚椎カラーをネット購入したおかげで以前より生活は楽になったが、それでも夜は疼痛の波でうまく眠れず、パソコンに向かえば腕の痺れが増す状態で一週間が経過した。
さすがにこのままでは何らかの支障が生じるだろうと、院長がいる時間帯に再度クリニックを訪れた結果、二度目の診察拒否を叩きつけられたわけだ。
こんな差別を受ける筋合い、わたしにはない。
さすがに腹が立った。たとえば肋骨が折れたとか靭帯を傷めたとか、過去に経験のあるフィジカルな痛みならばわざわざ病院へ行こうとは思わない。自宅には鎮痛剤もあるし、想像できる怪我ならば自分自身で納得がいくからだ。
だが腕の痺れは初めての出来事であり、かつ、頚椎を傷めているならば穏やかではない。もちろん、すぐさま治療を開始しなかったことで重篤な後遺症が出るとは思っていない。だが、だったら後回しでもいいのか?という疑問が残る。
「たとえば虫歯で痛くてどうしようもない場合、それでも14日間は治療もできずに我慢しなければならないのか」
虫歯の治療など早ければ早い方がいいと思うが、健康な帰国者が虫歯治療を懇願してきた場合、歯科医はどうするのかを尋ねた返答が、冒頭の友人の言葉である。
もちろん診察はしたいが、保健所から「不要不急の治療は控えるよう」指示されている以上、あえて帰国者を診るというリスクを負うこともない。
ましてやその一人の帰国者を優先した結果、不幸にもクリニックからコロナ感染者が出てしまった場合、歯科医としても経営者としても大ダメージをくらうばかりか、地域からの信用を失いかねない。
実際のところは感染者云々よりも、
「あの歯医者は、自宅待機中の帰国者を治療したらしい」
という噂がたつことが怖いのだと思う。
――だから何だ?その結果どんな恐ろしいことが起きるんだ?
ほとんどの場合、何も起きないだろう。だがあたかも何か起きそうな噂こそが、最も恐ろしい起爆剤ともいえる。
眼科の主治医はこう言った。
「私はあなたのかかりつけ医だし、自宅待機期間中とはいえ病院は不要不急の場ではないから、当然診察しますよ」
わたしにとって目は命と同等の重みがある。この言葉を聞いて救われたし、心から感謝した。
わたしは一体、どんな罪を犯したというのか。アメリカから帰国することは、病院を訪れることすらも拒まれるほどの危険をはらんでいるのか。
新型コロナ感染者が診察拒否となる事例を過去にたびたび見聞きした。しかし今、新型コロナ陰性できわめて健康体のわたしが、帰国者というだけで診察拒否の現実に直面している。
外で体を動かすこともダメ、病院へ行くこともダメ。その結果、体調不良や重篤な後遺症が出たとしても誰もわるくない。そうなった本人の「運」がわるいのだ。
こんな水際対策、正気の沙汰とは思えない。そこで入国者健康確認センターへメールで抗議をするも、
ご不便をお掛け致しております。
ご自身の状態から到底不要不急ではないと判断されましたら、各医療機関へ待機期間中である旨お伝えいただき、
承諾を得られた機関にてご受診くださいますようお願い致します。(中略)お力になることができず、申し訳ございません。ご不便をお掛けしている中大変恐縮ですが、ご確認の程何卒よろし くお願い申し上げます。
このようなやり取りを繰り返すのみ。無論、このメールを送信している人に罪はない。こう答えるしかないのだから。
新型コロナを、そして変異株の侵入を軽んじているわけではない。だが「正しく恐れる」ということが実践できない限り、こういうおかしな事態に翻弄される人間が現れるのも事実。
帰国後の待機については、現実的な再考が必要だと強く感じる。
・・・ふーん。
サムネイル by 希鳳
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